酔夏

世間は夏休みのせいか、ガラガラですこぶる居心地が良い。無理して開けてる個人店も暇そう。売るもん無いもんなぁ。学生のときは世の流れと逆方向に帰省していた記憶があるが、快調だった高速が詰まり始めたり、列車がビルの谷間を走るようになると、帰ってきたな感が湧き上がったものだ。今は行くところも還るところもドコにもないが、ココにいたいという愛着があるわけでもなく、老いた親と仕事というしがらみがなくなったら、鮨屋と天麩羅屋と蕎麦屋と鰻屋の界隈に棲息して自由気儘にフラフラお気楽したい。元々盆は7月だし、車で10分の墓はあっても先祖代々どころか今のところお一人様専用だし、盆は暑いし彼岸は残暑と花粉じゃ外に出ることもできないし、8/中の夏休みってのは昔から敢えてその時期を外して休暇をとって、座って通勤してエアコンでガンガンに冷やした室内で、ドコにも行くとこがない組でサボリ捲くりんぐするものだと思っていたな。

chablis

真夏はブルゴーニュ北辺の石灰質の特定の畑で穫れるシャルドネ100%の白葡萄酒を好んで飲む。シャブリ村で採れるから通称シャブリ(Chablis)。低ランクから順に、プティ・シャブリ<シャブリ<シャブリ・プルミエ・クリュ(一級畑)<シャブリ・グラン・クリュ(特級畑)の4段階に区分されたAOC(原産地統制)で、ACC(アペラスィオン・シャブリ・コントローレ)と呼ばれ、各級ごとに生産場所と生産量が厳密に管理されている。比較的高価なブルゴーニュの葡萄酒の中でも安価で入手性が良い。若いほど(低等級ほど)辛口でキリッと締まった酸味で、高級品ほど甘味と豊穣さが加わるのが一般的。色は涼しい浅緑から黄緑系で透明感のあるもの。無印シャブリの醸造期間は1年ほどで、ステンレスタンクを用い、樽香を控えめにしたもののほうが、その特質がよく出ると個人的には思っている。プルミエ・クリュ以上は寝かすことが肝要だが、シャブリはさっさと飲むに相応しい。

芋キッシュ

で、まぁ、いろいろ試してはいるが、次を開けたときには前の味わいは忘れているので、極めて感覚的なレベルでしか味の差がわからん。昨今は伊太モノにも興味が向いてきて、D.O.C.レベルの1000円クラス辺境系土着種を彷徨っている。混ぜ物のない土着種100%を中心に、今回は芋チーズ・キッシュにイタリア半島の踵、プッリャ州のプリミティーヴォ(Primitivo di Manduria:プリミティーヴォ種100%)を合せてみたが、黒に近い赤で重過ぎない割には凝縮された濃さが良かった。

primitivo

■青椒肉絲■

カナダ産豚背肉500gを融かしちまったので何にしようか考えていたんだが、カツは飽きたしピーマンを50個イトヨ・ネスパで買ってしまったので青椒肉絲にでもするしかないか? その名の通り肉料理だから、一人頭250gの肉絲で丁度良い塩梅。大振りな北海道産ピーマン10個と辛味調整用青唐辛子酢漬け3本を用いる。和風中華に興味はないので筍は割愛。個々の調味料の風味を殺す“合わせ調味料”も論外というか失笑というか昭和の遺物。調味料は逐次投入して個々の味わいを際立たせろと、NHKのために“合わせ調味料”を考案した陳建民の息子である陳建一ですら言っている。

広東風青椒肉絲

肉は千切りにして、岩塩、白胡椒、老酒、胡麻油、片栗粉、卵白で揉んで冷蔵庫で一晩くらい置く。ピーマンは同じく千切りに。肉は130~150℃くらいの低温で、箸でほぐしながら色が白く変わる程度に揚げて油をよく切り置く。中華鍋で生姜、葱のミジン切りを新たな胡麻油少々で炒め、香りが立ったら醤油、オイスターソース、鶏がらスープで調味。強火にしてピーマンを軽く煽り、肉を戻し、水溶き片栗粉を回し入れ、1分ほど煽ったら火を止める。広東風の青椒肉絲は非常に手軽なものだ。

7月3週頭。3連休の中日だから鮨屋に行っても仕方ないし、腹が減ったからすき家。店員のシフトが元に戻ったようで、いちばん上手で信頼に足るあんちゃんとオバちゃんが復帰していた。特ウナ26回目。特鰻牛ご飯少なめサラダセット+カラアゲ8個+ビールx2で朝から満腹じゃ。動けん。最近開発したこの構成は、鰻丼の脇に載った牛肉とカラアゲとサラダでビールを飲んで、特鰻丼で締めるという手法である。カラアゲは残念なことに腿肉に仕様変更されており、大きくなって数が減ったが、当然油っこくなっているので、腹膨れるを通り越して気持ち悪くなるのでもう止めよう。日高屋のカラアゲも腿肉になってから全く食わなくなったが、ただでさえ脂ぎった素材に衣つけて、更に油を染み込ませてまでトコトン脂っこいものを食べたいという現代日本食の飽くなき脂信仰と世間の貪欲なまでの意欲には脱帽するわ。一口齧って口の中に溢れるブロイラーのヌチャぁっとした臭い脂は皮と肉の間の黄色い皮下脂肪を取り除くことで大いに改善されるんだが、そんな手間を掛ける必然性はないか? あるわけ無いじゃん。

SEIYUのネスパで買ってみた米産冷凍肩肉税込み500円で320g。真ん中に筋が通っていて下拵えが必要だが量はちょい少な目で丁度良い。肉質はステーキとして食うにはギリギリだが、価格からしていい線だろうし、何と言っても身の丈に合っている。もうちょっと厚みがあると焼き方にも工夫のしようがあるのだが、15mmほどのペラじゃ仕方があるまい。

ペラ肉

鰻は再びロットが変じて最初期と同等、適度な厚さに戻っていて喝采。8月に入ってからは外に出るのすら億劫でペースが落ちているので、少し時間を早めて涼しいうちに行って帰ってこようと目論むが、タイミングによっては団体がいたり、葱卵納豆の臭気をモロに浴びてひしゃげそうになるので難しいところ。というわけで夏の馬鹿騒ぎも終わったし、そろそろいいかな? と近場。近隣の在には残念ながら鰻を食わせる店はない。隣町には予約無しで入れる鰻屋が4軒あって、TVで紹介されたと聞くいちばん有名(老舗?)なところは焼きがヘタクソで焦げてるし、タレも濃い甘で飯がベチャベチャと江戸前とは180度正反対なので、残り地焼1軒と蒸し2軒から3択になる。内2軒は暑い中、駅から歩くのはたるいなぁ……という距離なので必然的に目的地は決まる。土日休みのタイプで、値段はそこそこ、味もそこそこ。浅めに白焼きまでしたものを炙って蒲焼きにする、よくあるタイプの標準的な店だと思う。都内名店ほど値上げはできないから、涙ぐましいところは感じられるか。自前店舗で家族営業だから食っていける塩梅って、ウチと同じだね。鰻は概ね吉田。焼きは焦げが殆ど目立たずふっくら。炭焼き。タレは薄くて辛め。肝串があれば頼むが、無いことも多い。白焼きはたいてい付ける。1尾半の特上鰻重と肝吸いと新香付きで、ビール+酒で5000円ほどで収まっちゃうという良心的な店。

出る釘はとことん叩かれ、ついに値上げに追い込まれたすき家は旧盆を過ぎても鰻の幟が立っているので朝ゴハン・フルセット。鰻は頭側も肉薄の脂薄大きめになっていて更に喝采。こりゃいい。月末くらいまでは食えそうかな? 朝だというにヘタリそうな暑さで、食い終わっても店出れないわ。

■天麩羅■

eat inで天麩羅は基本的にヤラないのだが、捨値で袋に詰め込んだような茄子が余っちゃってさ。漬物じゃ消費しきれんし、色が悪くなってくるから重い腰を上げた。半割にして切れ目を入れる。油はキャノーラ70%、焙煎胡麻油30%。粉は薄力粉、卵、冷水でさっくりと。揚げは高温で1分ほど。

ナス天

天麩羅でゴハンを食うのはちょっとキツイから、量はそれなりに必要になる。オマケでピーマンとイカも素揚げしといた。イカは丸まったが刺身用に捌いておいたものだから半生でOK。つゆは自前蕎麦つゆを薄めたもの。薬味は生姜のみ。

烏賊+ピーマン

通年はキロ3万でスタートする新子はキロ8万(7月中旬)だそうで、8月の盆明けくらいまでとてもじゃないが買えないそう。新烏賊(スミイカの子供)も不漁で、カンパチにはまだちょっと早いが、ヒラマサも全然無い模様。まぁ、ブリ類は養殖のほうが一般受けする(鮪もか)から世間的には無問題だね。8月頭。今季初の大間の本鮪150kgほどのもの。赤身と中トロとはがし。本鮪の味はするが、酸味がちょっと足りないか。あっさり目で凝縮された旨味はまだまだ。新烏賊も今季初。甲の全長が4cmくらいの一貫付け。超ミニだがこれは素晴らしい、というかご苦労さん。その他、クエ、鰹、目鯛あたりはいつも通り。同じ魚でも太平洋と日本海では雲泥の差が付くものがあるが、目鯛もその一つ。山口の目鯛は味が深い。岩牡蠣は京都産。銚子の岩牡蠣は磯臭くて敬遠される場合があるそうで、味わいが穏やかなものを狙って仕入れていると店長談。的矢は高くて無理無理。象潟はどうかな? 来週は掻き入れどきの盆なのに夏枯れの上、台風の連続。ガラリと引き戸を開けると開口一番、「なんもないヨ」だもんな(笑)。

■プロシュット■

けっこう出回っているガローニ(Galloni)製18ヶ月熟成品。18ヶ月というとなかなか? と思うけど最低ランクの普及品なんだな。ブロックだと筋が口に残ることもあるが、そのまま食べても味わい深いし、オリーブ油に漬け込んでも良い。生ハムは輸入、国産ひっくるめてピンキリだが、同質の国産品を作れないのに高関税で輸入を絞るのは勘弁して欲しいものだ。

生ハムブロック

世では厚切りのパンがもてはやされていると聞くが、パンが厚いとオカズを食べれなくなってしまうのでパンに限っては薄ければ薄いほどよい。パンは所詮、オカズの添え物や口直し、ソースの拭き取り装置として存在するもので、焼かれたパンだけが目の前に置かれたら、困惑も極まるというもの。パンでないものがパンとして流通するここ辺境では、やはり糖や乳、油脂が入っていないパンのようなパンを見つけるのが酷く難しい。菓子パンや惣菜パンといった付加価値で売ることが常態化しているのか、食パンと云われるモノですら甘ったるい香りと味を強要してくるのには心底閉口する。いろいろ試しつつも、配達してくれるお手軽さにちょくちょく購入しているのが田舎の聖地、Aeonのパンである。麦の粉、イースト、モルトシロップ(又はモルト粉)、塩という基礎的な構成が守られていることが最低限だが、悪趣味な風味付けや油脂添加、多糖類や人工甘味剤の練り込みが無いものとなると、冗談抜きで極めて選択肢は限られてしまうものである。

イオンのパン

しかしこのバゲット、焼きが甘く塩が足りんし、気泡が細かすぎ。もうちょっと、パリっとせんかね? と思うのだが、量販ではこの辺りが限界なのか? モルトシロップは液状の麦芽糖でイーストの餌。V.Cは酸化防止剤として誰もが口にするヴァイタミン・Cの略で、国内流通するV.Cは100%中国産ですな。ライ麦パンは小さい割に酷く高価で、重量はまぁまぁ重い。酸味は後から加えてないライの自然な酸味のみ。硬くて密度は高いので、まぁまぁ気に入っている。

ササニシキ

一方、米には全く悩みがない。今や絶滅寸前、僅少種に成り果てた鳥海山南麓のササニシキ100%。減農薬特栽米で、生産圃場、生産者名、検査者名、農薬の使用回数と種別がラベルに記載されているんだが、まぁ、そのへんはどうでもよくて、混ぜ物がない甘くない粘らない米が好きなだけ。年に2袋、計60kgを消費する。保存は農業資材店で売っている脱酸素専用袋で5kgづつ小分けして冷暗所へ。玄米だから研ぐ直前に5000円ほどで叩き売っていたTwinbird謹製精米御膳で概ね胚芽米に精米する。炊きたての香りが控え目なりに独特なのもいいなぁ。

■チーズ+ハラペーニョ+ベイコン■

生のハラペーニョがあったので、途方も無い値付だがつい手が出た。1個はそのまま薄くスライスしてサルサ・ロハに、残りは中身を出して、数が足りないからピーマンと一緒にベイコン巻きにしてみた。辛いのは種を繋ぐ白い部位なので、生で齧ってみてもどうということはないレベル。半割にしたらクリームチーズを充填し、刃渡り30cmの筋切りで3~5mm厚に削いだ皮付きベイコンを巻きつけて楊枝で留める。後は焼くだけ。

3材料

ベイコンは豚のバラ肉を塩漬けにして乾燥熟成の上、広葉樹のチップなどで燻した非加熱食肉製品で、これがまた、なかなか納得がいく質のものが手に入らないので日々難渋しているのだが、皆はどうしているのだろう?

ontheoven

凡そ工夫に乏しいオカズだが、肉厚ならば5個も食えば腹は膨れる。塩が効いて身が引き締まったベイコンは非常に高価なのでウチではなかなか手が出ないが、たまに食べるとおいしいわ。

bcp

■赤海鞘■

アカボヤの割にベラボウに安いじゃないかと思って2パック買っちゃた。海鞘は鮮度が命と言われるが、酢醤油に漬けておくと平気で1週間ぐらいは食える、というのは鮨屋のあんちゃんに教わった紛れもない事実。アカボヤの方が独特のアルコール風味が強く、香り、食感ともにマボヤに勝る。身はプリプリで旨かった。

海鞘4つ

海鞘は販促のため、飽きもせず様々な小細工メニューが考案され続けているが、ハッキリ言って、ホヤ酢以外旨くないから(笑)。諦めろ~。

アカボヤ剥き身

■鰆(サワラ)■

鮨屋に行けば皮目を霜降りにしたものが真夏以外はほぼ1年中食える有り難みのない魚だが、鰤や烏賊と同じく季節を問わず概ね日本海産のほうがおいしい。南方系の近縁種を使った紛い物もあるが、背の斑点で概ね見分けはつく。れっきとした赤身魚だが身肉が白っぽく見えるから白身扱いされることが多い。安いのか高いのかよくわからん微妙な値付で、切り身が半額なら何とか買えるか。鰆というよりはサゴチ(サゴシ)レベルの大きさだが、量販だから仕方ないだろ。舞鶴か宮津あたりに水揚げされたものと思われるが、冷凍庫に直行して半月ほど。その気になったので解凍したもの。焼くなり煮るなり揚げるなり可能だが、麹に漬けて焼いてみた。

鰆切り身

塩麹は市販の都麹備蓄品に海塩と軟水を加え、1週間ほど常温放置で醗酵させたもの。鰆は解凍後「さかなくん(愛用するドリップシート)」に包み半日ほど冷蔵庫で脱水。塩麹に2日漬け込む。後は焼くだけ。オーブン220℃で返しを入れて軽く焦げ目がつくまで。約20分。

焼き鰆

せっかくだから胡瓜と大根の麹漬けも作ってみたが、微妙な塩味でゴハンのオカズには丁度良いかも。

■鶏腿マリネ焼き■

ブラジル産の2kgで700円もしやがる冷凍腿肉を解凍し、黄色い脂肪を可能な限り小削ぎ取り、くまなく塩と胡椒を擦り込んで、玉葱、オリーブ油と白葡萄酒、大蒜、黒胡椒、唐辛子、白葡萄酒ヴィネガーに漬け込んで、そのまま冷蔵庫で忘れられて1週間。ヤヴァいかも~と臭いをかぐが、ま、いいんでない? 軽く茹でたジャガイモと一緒にオーブンで焼くだけ。肉の芯まで塩が通っているので特にソースなどは必要に思わない。酸の効果で肉もしっとり、脂っこさも皆無で手抜きにしては上々だわ。

鶏腿マリネ

2014/08/24 作成__2014/08/25 最終更新