秋霖2013

「はたらけど はたらけど猶 わが生活(くらし) 楽にならざり ぢつと手を見る」と詠んだのは啄木だが、「働いても働いても暮らしが楽にならない」という現象は、今まであまり気にしたことはなかったのだが、もしかしてワーキング・プアってやつか?(笑) おおお、と傷だらけの手を眺めながらのほほんと絶望するのであった。

辻邦生、赤江獏、光瀬龍、泡坂妻夫あたりが次々と他界したのは記憶に新しいが、とうとう連城三紀彦もか。かつて貪るように読んだ作家たちが悉く他界するってのは、自らも同時代性を喪いつつあることの証左であって、焦燥を感ずるべきなのか、諦観すべきなのか、なんとも御しがたい心情ではあるか。笠井潔も早く書くべきものを書いて完結させてね(笑)。そんなときには、まぁ、奥泉光の『クワコー・シリーズ』だね。ここまでメタなコスプレ小説は読んだことがない(笑)。

MyBag

ときどき利用している岡田屋のレジ袋が有料になると聞いて、ベトナム産マイバッグ買っといた。一枚2円で45lタイプと30lタイプ各100枚。15μm~18μmとタダでくれる極薄と同等厚か微妙に厚い程度。最終的にはゴミ袋になるから重宝してたんだが、あまり使い道のない中低圧法高密度ポリエチレン(HDPE)の消費と焼却炉の火力増強と開発途上国の経済発展に貢献しているのに、とうとうゴミ袋まで買う時代かよ。週3回の燃えるゴミの収集には必ず必要だから、1年ほどしか持たない計算になる。まぁ、タダの店のほうが圧倒的に多いから、当面は事足りるかね? デポジット制のカゴにすればそのまま持って帰れるらしいので、ピンクのカゴを手に帰るのもいいんだが、空のカゴ持って出掛けるのは気が進まないなぁ。車は酒飲んでたら運転できないし、買物って素面で行くと思い切りが悪すぎて時間掛かるから、困ったもんだわ。

■またバナナ■

デルモンテ・バナナ

果物の中でも殊更に安価で、扱いが手軽で、炭水化物代わりにもなるという貧者の友。高価なフルーツ・パフェの半分がバナナだったら、普通怒るだろ? まずは定番デルモンテ。デルモンテにはハイランド・バナナもあるが、これは低地産の普及品かな? 小振りで、甘味酸味香りがバランスよく小ぢんまりまとまった味わい。

Willバナナ

上はプレシャス表示が付いたハイランドのWillで、下がStarrellaでスターレージャ。シールの違いは生産プランテーションの違いだが、行く度に違うバナナを仕入れてくる八百屋のオヤジも相当なもんだな。なるべく緑のものを買ってきて常温放置。1週間ほどで食べ切る。

スターレージャ

■海鮮三崎港■

という京樽傘下の和風ファミレスが昔あったと思うが、今は江戸前風の握り回転寿司に業態転換しているようだ。持ち帰り関西寿司の京樽は倒産後吉野家に拾われたんだっけ? 近在の久遠商店街の店舗に注文していた睡眠用敷マットが入荷したとの連絡を受け、わざわざ出向いて(ネット買いだと優待カードが使えない)はみたものの、飲食は小ぎれいな屋台街のような趣で、毎度お馴染みチェーン店ばかり。どうせチェーンなら一応完全に区分された寿司がいちばん落ち着けそうだったので入ってみた。日曜午前10時30前。開店したての最初の客だね。和洋折衷の中途半端なカウンターは10席のみで、残りすべてはボックス席。個人客はお呼びじゃないか。つけ場にオヤジ一名、ネタの仕込みに余念がないが、愛想は悪くない。最近はこの手のシステムにもかなり慣れてきて、湯呑みやガリ、ワサビ等もまごつかずにセッティングが可能になった。

ノンアル・ビールは置いていないそうで、レーン下段で回転している湯呑みを手にして湯を入れる。ノーマルメニューは文字だけのタイプ。刺し身も対応可能らしい。ノーマルメニュー以外に本マグロが季節メニューで販促中らしい。見回すと奥の厨房の配膳口上部に本日のお薦め札。皿の色で値段が変わるタイプらしい。レーンは動いているが皿は皆無なので、全て口頭で注文するのが慣わしの模様。

個別種コメント

本鮪赤身:お薦めなら仕方がない。厚さ5mmあるかなぁ? 一応黒だろうが、酸味、香りともあっさりめ。色味もあっさりめ。悲しくなるほど深味がない。

本鮪中トロ:もう一度チャンスを。脂は養殖特有のクドさが残る。冷たい。シャリが温かめだから余計か。締りのない身質とトボけた色合いは解凍しそこねた地中海の蓄養だろう。

鮑:目先を変える。チリ産の養殖アカネアワビと思われる。薄いベージュ色。縁は身より若干濃い目のベージュ。味わいも薄めだが、この手の店としては比較的厚めに切られ、良心的。それほど忙しそうには見えないが、予め一貫用にすべて捌いてステンレス容器に放り込んで冷蔵するのは感心しないな。3皿食った。

縁側:玉砕。典型的なカラスガレイの縁側。比較的大振りだが、こういうのは小さくていいわね。

小肌:冒険。う~ん、ナカズミくらいだな。締めすぎで塩辛いし、硬い。煮切が塗られていたが、こんなもの出してりゃ、そりゃ食う人いなくなるわね。

秋刀魚:旬の定番。おろし生姜と青葱トッピング。捌き加減が下手糞で小骨あり。回り寿司としてはぎりぎりの鮮度かな。鮨屋ならちょっと匂い嗅いで干物か味醂干し行き。

甲烏賊:小逃亡。小振り。肉薄だがねっとり感は強い。色味や食感は典型的な解凍品だね。

ずわい蟹:一縷の望み。1貫に湯掻いた足一本。太腿の部分。ロシアやアメリカの冷凍だろうが、これは臭みもなく上等だった。紅ずわいでもなく本物。でも冷たい。しかし、握りにするなら湯掻きたてをちょっと開いて、カニ味噌載せるとか工夫の仕方はいくらでもある。

赤貝:畏怖。中国産だろうが身肉は厚めで大振り、色も悪くはないが、剥いてから時間が経ったもののせいか瑞々しさに欠ける。パック品かいな? 飾り包丁を入れても反らないグレード。霧吹きでアスコルビン酸、吹いたほうがいいな。ちょっと臭い。

炙りトロサーモン:冗談。乾いたレモンが一切れ。チリの銀鮭かな? 腹身だから脂っこいのは仕方ないが、臭うな。

穴子:諧謔。中国産の大穴子か南米クロアナゴか? はたまたマアナゴならぬ丸アナゴか? 斜め削ぎ切り。大きいが身肉は薄く脂のりも今ひとつ。詰めは少なめだが甘味旨味はかなり強い、業務用タレの類と思われる。

車海老(生):試練。値段が値段だから現地で捌いて尾付きで握るだけの姿になっている冷凍パック品だろう。才巻程度だがすっかり不透明に白い身が硬い。まぁ、ブラックタイガーじゃないと思うが、車としては相当残念なモノ。乾燥して冷蔵庫臭い。しかし、踊りという食い方はあるにせよ、車は湯掻いて一瞬冷水で締めたほうが香るし、食感も旨味も一皮剥けた感触になるのに、回転はどこも手間を掛けたくないせいか生に拘るね(笑)。まぁ、剥き身を湯掻いたらスカスカになっちゃうか。

鉄火巻:了。目の前で巻いてくれるんだが、米に水分が多いせいか海苔がシワシワ。切り口が汚い。米の量はボリューミナウスというよりは語感としてはマッシブ。鮪はバチだが量販店の海苔巻き並みにミーガーでプア。

炊き加減に問題があるのか世間的な好みなのかは知らんが、シャリの水分が多いのが気になった。品種は比較的長粒種。この手のタイプにしてはシャリは珍しく酢が効いて甘みが薄い。いい具合の人肌なのに、予め切り分けられたネタは解凍したばかりなのか冷たすぎでバランスが悪い。ネタはちょっと薄いが回り寿司としてはまぁまぁ。販促している鮪は銚子丸と甲乙つけがたい残念なレベルだが、回転寿司やデパート・スーパーに卸されたり、解体ショーの目玉になってる鮪ってのは“一般小売り向けの残り物”だから仕方ない。その二日前に鮨屋で近海鮪の赤身と剥がしと脳天とカマトロ炙りさんざん食ってきたから舌に記憶が残っていて、どうしても同じ魚とは思えなかった。

勘定を告げるとおネエちゃんが皿を数えに来る。支払いはカードが使えて便利な上に、カードだと(久遠商店街内の店舗だから?)自動的に5%(日によっては10%)引きになるそうで、驚いた。11時過ぎに出るまで、客はあとから一人入店したのみ。休日でこんなに空いているんだったら、また来ようかな(笑)と思った次第。シャリが温かく小さめ、酢が香り、握りが上手くはないが一応職人レベルという線で、握り寿司という意味ではロードサイド展開の銚子丸より気に入った。

三崎というのは全国各地にありふれた地名だが、この場合は神奈川県三浦半島の南端の三崎漁港を指すのだろう。南洋バチマグロとインドマグロの集積地としては焼津に次ぐ有数の規模だろうが、遠洋延縄漁による漁獲なので陸揚げはもちろん冷凍魚。後背地には冷凍倉庫や加工設備が揃った水産基地であり、マグロ観光でも盛んに売出中。鮮魚は松輪鯖に根付き鯵、伊豆の金目鯛、地元の磯の海鼠、鮑、栄螺といったところかな? 天然と表示がつかないブリ類は近くの海面養殖施設のもの。生バチは塩竈、勝浦(千葉+那智)だが秋冬の銚子以北が独壇場、同じく秋から冬にかけての生黒鮪は津軽海峡、大間か戸井、北海道渡島沖、津軽三厩。輸入ならボストン、ハリファックスの北大西洋。春から初夏は境港、壱岐、長崎松浦、夏場は南半球のインド鮪、メジは佐賀唐津呼子、対馬・玄海辺りと相場は決まっていて揺るぎがない。

■西瓜の漬物■

スイカの粕漬け

歳のせいか漬物で飯が食える。漬物といえば過去の遺物。探してもなかなか好みのものに巡り会えないものだが、これは気に入った。黄身の入っていないピータンじゃなくて、直径6cmほどの小玉の西瓜(専用品種?)を酒粕に漬け込んだもの。扶桑の守口漬を扱っている店で手に入れた。看板の守口漬より高価という“いいお値段”だが、これはなかなか絶品の部類。歯触り、透明な甘味、瑞々しさ、瓜の奈良漬けとは一味違う。

スイカ粕漬け断面

可哀想に芝海老さん。一躍“時の人”ならぬ“時の海老”に祭り上げられて、困惑も極まるというもの。1gで1円切る安っすい海老なのに(笑)。外で出されて嬉しいのは芝海老の掻き揚げぐらいですかね? 芝海老だけでもよいし、小柱や三つ葉と組合せても最高の食感ですね。鮨にするには小さいし、鮨は車海老という大御所が揺るぎない地位を押さえているので雑魚が入り込む余地はない。個人的に深い感銘を受けたのは“クリスタル炒め”。どんな調理法なのだろう? まったく想像がつかないんだが、透明な餡でも掛けながら炒めちゃうのだろうか? 水晶みたいに硬くて歯がたたないの?

売り場に並んでいればよく買う。生で刺し身にするのも良いが、糞忙しいときは掻き揚げにすればいいじゃんと冷凍庫に突っ込む。小柱よりも身のほうが安かったので、青柳の舌切も掻き揚げ用に冷凍じゃ。鮨屋なら元々オボロに使ってきたわけだし、スリ身にして玉子焼きのツナギにするのも伝統の技だが、それも今は昔。誰も使わないから結構売値は安いものよ。料理をする人ならわかるだろうが、海老ってのは食える状態にするのにものすごく手間が掛るんだわ。

芝海老+舌切

エビチリは昔どこかにも書いたけど、四川料理の「乾焼蝦仁(ガンシャオシャーレン)」の日式アレンジで、四川に海はないから本来は川海老。それが揚子江を下って、車海老や大正海老(コウライエビ)といった海の大型海老が使われるようにヴァリエイションが増え、国内に持ち込まれた際に豆板醤をケチャップで代用し、ラーメンと同じく、今は日式として大陸にも逆輸出されている。まぁ、海老を食う料理だから、海老の質と下拵え、ソースのバランスで基礎的な味は決まると思う。ソースに酒醸(チューニャン)を使うから、辛さの中にコクのある甘酸っぱさが優れた隠し味として機能するわけで、今風のメニューにするなら海老は弾力に富んだバナメイの方が合うんじゃないか?

こちらはボタン海老と呼ばれるトヤマ海老。鮨ネタにするにはちょっと小さいせいか、鮮緑色の卵をたっぷりと抱いていたのに嘘のように安かった。足の間の卵は指で掻き落とし、殻は剥く。頭は味噌汁に。余ったガラは揚げて塩でも振れば摘みくらいにはなる。余興で庭に生えてる長葱の葉でオムレツ風。紅生姜はすき家の(笑)。

エビ刺し

海老ガラの残り物は一度素揚げしたものを庭に生えてる三つ葉と一緒に掻き揚げにして蕎麦種にしてみた。休日のセルフ賄い朝昼兼用。なんという貧困。

天そば

芝海老はまったく別種のバナメイ海老よりは高価だが、小エビの類だから高価な海老ではない。最大の違いは養殖の芝海老が存在しないということだろう。活きの流通が確立され高値が付く車海老の養殖は採算ベースに乗るが、芝海老じゃな(笑)。秋から冬、春にかけて九州あたりのものをよく目にするが、漁期もあろうし、結果的に獲れるか獲れぬかは海次第天候次第で、市場にあるかどうかも運任せ、ましてや、ピチピチの活きものとなればコネや伝手があったとしても確保できる量は僅少だろう。おまけに基本生だし、殻付きしか市場にないから手で剥くという絶望的に膨大な手間が掛かるわけで、とてもじゃないが海外製の背ワタ抜き冷凍バナメイ剥き身に敵うわけがない。身が柔らかい分、身持ちも悪く鮮度が落ちるとすぐ臭うから、調理人泣かせの扱い難い海老である。

そんなこんな、どう考えたって安定供給が不可能なものが、いつでも食えるという魔法のレストランが乱立するなんて、なんと贅沢なお国柄であろう。基本的に身分違いの場所に出入りすることは避けているが、贅沢三昧の世間は羨ましい限り。私のような底辺だと、国産品はとにかく高価過ぎて手が出ないし、背伸びしてもその良さが実感できず恥ずかしい。他人が語る味の差が私の杜撰な舌ではわからないというのも大きな理由の一つ。だから、牛は豪産、豚はカナダ・アメリカ産、鶏はブラジル・タイ・中国産、羊は豪・ニュージーランド産、野菜は中国産とアメリカ産、東欧産の冷凍野菜を多用し、トマトもアメリカ産の中玉しか買わない・買えない。フルーツはフィリッピンのバナナにアメリカ・南アフリカのグレープフルーツとオレンジばかり。メヒコか豪産の生アスパラがあると歓喜しちゃうし、葱は根っこを再生して中国産の化学肥料をたっぷりあげてる。茸はベトナム産フクロダケと中国産マシュルームの缶詰だし、ウズラの卵ももちろん中国産の水煮缶。生ワカメは圧倒的に中国産が肉厚で身が締まって旨いし、山菜類は他を寄せ付けない。自慢じゃないが、国産品の入り込む余地は殆どない。米は苦労してルート開拓した国産を農家から直接買っているが、貧乏人は麦を食うもんだから、消費量は一般人の半分以下。年にササニシキ玄米30kgで足りる。

台風直後でネタ枯れだろうが、たまには座れる鮨屋。すっかり時代の主流から外れ、近在には今や片手で数えられるどころか、二者択一のレベルまで選択肢がない。カウンターの真ん中。注文は取り敢えず生ビでお任せ摘みとお任せ握り。酒に代えて銘柄は指定。摘みは刺盛りに始まって芝海老の掻き揚げと穴子の白焼き、ふぐ白子焼きを追加。刺盛りはイカ、ホッキとホッキ貝柱、クエ、甘エビ、〆鯖、鮪、シマアジ、シャコの合せ盛りと至って平凡(いや、まぁ、霜降り鮪やら新烏賊がたくさん載ってておいしかったんだけどね)。掻き揚げは予熱で海老に火が通るという、なかなか絶妙な揚げ加減。当たり前だがカラっと軽めの油で揚げられて、芝海老のしっとりと優しい味わいと揚げて尚、仄かな香りが生きている。岩塩で。活けを捌いて焼く丸一匹分の穴子の白焼きも素材の良さが際立つ。皮パリ中フンワリ。酢橘と山葵と穴子の旨味が絡みあう。虎河豚の白子焼きも大振りなものが3個(形状的に丸一本を三等分?)と目を疑う。ぐぬぬ。焼き加減もさすがですな。

頃合いを見計らって握りにスイッチ。最初は中トロ、次はヒラメ(白身)って、最近ときどき出くわすパターン。流行りなのか? 鮪は津軽海峡産生本鮪、ヒラメもきっちり熟成されているがエッジが立った大物なのはわかるけど、その辺りの薀蓄を一切説明しない潔さが気に入った。職人はあんちゃんだが、腕はいいな。酢飯もネタも完璧人肌。下駄に載せるときの着地が手品みたい(笑)。絶妙のタイミングで繰り出されるネタの数々。ここは摘みがあるから箸が出ているんだが、シャリは赤酢だし煮切も塗られているから基本的に小皿も醤油も必要ない。指で掴みそのまま口へ。

残念ながらタイミングが悪く、感覚が圧倒されるほどのことはなかったが、地味に真面目に小ぢんまり営業している業態には好感した。季節やタイミングによって、あるものはあるし、ないものはない。あったとしても量はない。それが自然の理だ。同じ海老や貝を仕入れるのだって、活けと死体と冷凍じゃ価格も違うが味も違う。偽物をラベルとブランドで売りつける商売もあれば、本物を本物として売る商売もあるわけだが、前者が圧倒的な人気を博すのがこの国の文化としての「食」である。本物は味わえばわかるんだから、ラベルもブランドも必要ない。鮨は文化じゃなくて「姿勢」だから。自明の理。そろそろ還るべきところへ還るか。

しかし、現代和食の「脂」への信仰は相変わらずというか改めてというか、目を瞠らせるものがあるな。“あっさり”だの“さっぱり”だの“ヘルシー”だのってのはお得意の建前だったのか(笑)。赤身の肉に脂(+増粘多糖類+アミノ酸)を注入してまで食いたい、魚肉に植物油脂を混練して赤く色付けたものにまでお金を払いたいという、最早狂的なまでの脂信仰には恐れ入る。ラーメン、トロ、霜降り肉、鶏モモ、鶏皮、鰻、マヨネーズ、脂ぎったスナック菓子、マクドの鶏肉、養殖魚、脂が滴る生物製品鮭マス類に至るまで、噛んだときのグチャって柔らかく潰れる食感、脂と水分が一体化したゲル状物というの? どれもギトギト・テラテラの脂をありがたがる。脂の臭いと脂の味に対する絶対的な飢餓感とでも言おうか。かつての猫跨ぎであるトロに至っては、得体の知れぬネギトロに始まり、トロかつお・ブリトロ・トロアジ・トロサバ・トロサーモン・鮭トロ、豚トロに牛トロ丼・カニトロ丼に至るまで、“甘とろ豚”というブランド豚もいるし、回転寿司にはトロイワシやトロサンマが生息する。最も身近なのは言わずと知れたオレの腹。

■にくニクお肉■

薄切り牛肉序

もちろんウチの肉はサシ一つ入らない霜降り(あるいは箸で切れる日本人好みのアミノ酸注入結着肉)とは根絶無縁の豪産輸入赤身肉である。それも和牛との交雑種や穀物肥育でない、肉々しくもいっちゃん安いやつ。貧しさが身に滲み入るように、肩肉、背肉、腿肉といった部位を塊のまま焼いて、食べるときに切るという実に安直でお手軽な食い方であるね。もっとも、為替変動に便乗してこのところ価格が4割ほど上がってしまったので、調達には苦労が伴うわ。

薄切り牛肉破

愛好するカナダ産三元豚やアメリカ産四元豚に至っては50%近く値上がりしてないか? 主食の肉を減らし、添え物の芋を増やすなんて……。ちなみにエンドカットはオレのだから。

薄切り牛肉急

量販で売られているシチュー用のスネ肉4パック1kgをカベルネ・ソヴィニヨンに3日ほど漬け込んで、塩胡椒。小麦粉をまぶしてパンで焼き目を付けて、香味野菜と適当なスパイスと漬け込み用のCSで煮たり冷ましたり。肉を取り出し野菜は漉して、再度肉を戻し、煮たり冷ましたり。一応1回分肉250gの予定だったが、あまりのショボさに絶望した。

赤葡萄酒煮

■すき家のカレ~ライス■

まぁ、食わずにケチつけるのも大人気ないから食ってみた。家でわざわざ手間掛けて作るようなもんでもないからな。ハンバーグ・カレ~のメガ盛り(ご飯少なめ)にカラ~ゲ・セット。とオーダーするもあっさりハンバーグ品切れを告げられ、ただのメガ・カレ~ライスに変更。メガにしたのはカレ~が少ないのはツラいから。カラ~ゲ付けたのはカレ~が少ないとご飯が余りそうで悲しいから。ココはご飯少なめオーダーにするとご飯の分量が一ランク下がるのが嬉しい。ご飯の代わりにカリッと焼いたバゲット、醗酵バター1/4ポンド、セビリヤ・オレンジの苦味の効いたママレード付などであると、より望ましいのは言うまでもないが、その場合は変更前のカレ~のほうが合うなぁ。

三連休の最終日、午後3:30。ちゃかちゃかマンを避けるには10:30と15:30というのがこの世の摂理である。ただし、もう大丈夫だろうとうっかり10:20くらいに行くと、あとから駆け込みちゃかちゃかマンの集団に取り囲まれたりして絶望するので要注意である。カウンターに既客1のみでガラガラ。4人掛けテーブル席にどっこらせ~と座るやいなや、コップを持ったおネエちゃんが飛んでくる。ハンバーグ・カレ~のメガ(笑)と勇気を奮ったのに敢えなく「それなくなっちゃったんですー」と望みを絶たれる。親切にメニュー広げていろいろ説明してくれるんだが、確かに「当店では扱っておりません」と赤いシールが貼られてた。あの得体の知れない屑肉でこしらえたハンバーグがもう食えないとは……。ぐぬぬ。すかさずノーマル・メガでサラダ・セット。“とビール”。何故か“とビール”は二人で合唱になるのが常である。

思ったより時間は掛かる。3分ぐらい。おおおお、お。トレーからはみ出そうな目を疑う皿の大きさ。ご飯の面積が1/4と、まぁ、適正。ああ、サラダセットだと味噌汁付いちゃうんだった。具沢山の揚げと青葱の味噌汁ですが、カレ~に味噌汁はないだろ(笑)。なんつうミス・マッチにしてミス・ディレクション。直径30cm程度の白い縁高平皿で底は浅いから驚くほどのことはないと思うが、食っても食っても減らない(笑)。キングだとこれの倍か? カレ~の適温は60℃くらいだと思うが、ちょっと熱いな。粘度も高め。小麦粉入りということでカロリーも高そ。米も短粒種で固めに炊いているとはいえ粘度は高め。豚肉の肉ジャガにカレ~粉入れてみましたという塩梅で、現代日本食としての王道カレ~を目論んだということだろう。ジャガイモ(40)>肉(35)>人参(25)(分量比)は驚くほどふんだん。アンシャープ・フィルタ掛け過ぎたようなメニュー写真と比べてもほぼ遜色はない。ジャガイモにちゃんと角が残っていてグズグズに溶け込んでいないところは非常に高評価。玉葱に加え何らかの和風出汁、多糖類を加え、強調されたコク旨味は典型的な和風カレ~の味わいだった。羊肉や鶏肉に比べ、豚肉や牛肉はどうしてもスパイスと相性が悪いこともあり、香り、味共にスパイス風味はほとんど感ぜず。典型的なお子ちゃまカレ~だけど、安心できる味だわね。

赤くない福神漬け付。うちの真っ赤な福神漬は中国産の380円/kgだからそれよりは高級そう(笑)。福神漬は池の端の酒悦が明治の中頃開発した漬物で、七福神からとった七種の野菜を甘辛く漬け込んだもの。大根、刀豆(ナタマメ)、茄子、蓮根、胡瓜、紫蘇の実、椎茸から成るものだが、中国で生産される市販品の殆どは、安価な大根ばかり。自分で作ろうと思ったこともあるんだが、鹿児島名産刀豆が手に入らんのだわ。元々はカレー用に作られたものではないはず。日本では付け合せにラッキョウを使うこともあるが、パリっとした良品はそれなりの洋食屋レベルにならないと最近はあまり見ないかな?

このメガ・カレ~、さすがに腹持ちは良い。一日一食でもまぁ、いいかと思える満腹感。二度食ったが、二度目は途中でギブアップしようかと真剣に考えた。食ったけど。牛丼に比べると若干割高だが、丼ってご飯ばっかりだからな。宮沢賢治の時代じゃないんだから、ご飯とおかずのバランスをいい加減是正すべきだろう? これは千円ちょっとで瓶ビール付けて腹いっぱいカレ~が食えるのは素晴らしい。

■大蒜素揚げ■

1ネット15個で300円弱もしやがった大振りな中国産大蒜をそのまま揚げた。皮を剥いて揚げるとすぐ焦げるんで、外皮を適当に爪で割る程度。中温で8分くらい。皮の一部が薄っすら狐色になり始めると、ポンっと1、2回爆ぜる。爆ぜる音を聞いたら油から上げて油切りする。昨今は摺り下ろしたり齧ったりと生の大蒜を食べたり、餃子の中に練り込んだりという朝鮮式の風習が広く愛されているようで、完全に巷を席巻して常識化しているが、あれは苦手なんだ。火を通すとキツイ風味がまろやかに転じる。皮を剥き、岩塩や花椒をちょっと付けて、熱いうちに食う。

大蒜素揚げ

2013/11/04 作成__2013/11/04 最終更新