蒸す


なんという湿度。カワハギがないのに何故かフグがある。有明海の夏フグとゴマふぐ白子を賞味。ほんのりピンクから黄色に色付いたサシが入った身肉は噛むほどに特有の旨みが口に広がる。トラフグ白子の際立つ透明感にはかなわないが、ごまフグ白子もなんのその。もちろん、火を通さない生に限る。鱈の白子も悪くはないが、品格のグレードが桁違い。多くの犠牲の上に成り立った飽くなき官能を味わぬのは先人に対する無礼であろう。

岩牡蠣も旬。JF京都のもの。宮津の方かな? 全国各地の養殖が軌道に乗ったのかどうか、年中出回って有難味が著しく薄れたものの一つだが、真牡蠣とは違った渋味と甘味を湛えた奥深い滋味は代えがたい。粗塩だけで。

近在では珍しい「さっぱ」を賞味。岡山でいう“ままかり”。安くはないと語っていたが、最近はけっこう築地にも入荷するらしい。酢締めを握ったものだが、コハダとは異なる身肉の厚さとねっとりとした食感が甘みゼロのキツめの酢によく合う。普段、同じネタを複数回注文することはないが、あまりの旨さに4貫食ってしまった。今の時期の小肌(ナカズミか?)よりははるかに美味。さぁ、新子の季節が目の前だ(6/29:まだ築地にも出てない)。

自家製豆かん

その名の通り、豆+寒天。豆は赤えんどう豆を使うことが多いらしいが、自家収穫のツタンカーメン豆を使用。一晩、水に漬けておいた後、適度な硬さになるまで塩茹で。黒蜜と合わせるのできっちり塩味を付けておかないと味が暈ける。出来上がりは水切りして冷やしておく。寒天は天草などの海草を加工し、真冬に干して作るものらしいが、海に天草を拾いにいくところから始めると、食べれるのは3年後くらいになると思われるので普通に売られている乾物の角寒天を用いる。

寒天

規定量を水に溶いてゆっくり加熱する。繊維質がなくなってトロトロになったら裏漉しし、四角いタッパなど型に流し込み冷蔵庫で固める。黒蜜は黒砂糖のぶっかき塊(サトウキビ100%)を少量の水で砕きながら煮詰める。塊が完全に溶けたら器に取って冷蔵庫でとろみが付くまで冷却。

寒天茹で

あとは、固まった寒天を包丁でさいの目に切り、豆を合わせ、蜜を掛けるだけ。すべてがきっちりと冷えていることが肝要。賞味すれば明らかだが、普通の安直な売り物の場合、寒天はおそらく100%ではなく、ゼラチンや増粘剤、凝固剤の類が含まれていると思われる。自家寒天だと、粘り具合の質感が異なり口の中でホロける感じで、味わいも極めて自然。葛に似ているかもしれない。混じり気なしの黒蜜もビックリするほどすっきりとした透明感を湛えながらもコクがある。豆の煮加減は好みで良いだろうが、柔らかめの方が一般受けはするだろう。ツタンカーメン豆は皮が野性的で豆々し過ぎかな? 掛けた手間分の味にはなるだろう。

自家製豆かん

◇ 漬物

袋に入って売られている漬物の味が許し難いほど変質して既にずいぶん経つ。人工的に増強されたアミノ酸のくどさ、減塩信仰への迎合と味覚の幼稚化に伴う多糖類・甘味料による甘ったるい味付け。どれも飯のおかずにはならない。べったら漬や奈良漬までも酒粕が香らない単なるコク旨砂糖漬けに堕した。酒粕や麹の豊穣はどこへいったのだろう? “和風キムチ”がキムチではないように、“漬物”はもはや漬物ではなくなったと解釈すべきなのだろう。安価な売り物は、どう味わっても調味液加圧注入の超促成品で、ちっとも漬かっていないことが売りなのだろう。漬物のサラダ化か。需要は減りこそすれ、二度と増えることはない斜陽化の過程にあり、変化は不可逆的にして過去の遺物。無駄な足掻きは自滅の速度を上げるだけに過ぎないことは十分に理解しているので、結果的に、昔と同じ素材・製法で作っているとんでもない高級品(ex.扶桑守口大根、泉州水茄子など)を探し出して買うか、自分で作るしかないということになる。

蕪漬物

蕪を2本ほど。葉は適当にザク切りにして軽く湯掻く。球根は輪切り。塩を振って、水分が出てしんなりするまでよく揉む。水が出たらザルで軽く塩を流し、よく水を切る。再度、塩10gほどと酒10mlを振りよく揉んで、刻んだ柚子を散らす。重しを掛けて暫く置く。

泡菜風漬物

胡瓜、セロリを塩揉みし、しっかり水を切る。刻んだ泡辣椒(乳酸発酵させた巨大唐辛子)、老酒、挽いた花椒、塩で浅く漬け込んだもの。夏向き。

漬物で飯が食えるようになったのは、実はそれほど昔のことではない。今は漬物だけで飯が食える。喜ぶべきことなのかどうか。

◇ 悪食三昧

『特うな丼@すき家』

この時期、ロクなモノがないので秋口までは鰻屋で鰻は食べない時期だが、冷凍だから季節は関係ないし、まぁ、食べてみないとわからないから特うな丼を。業績絶好調とはいえ、値下げキャンペーン合戦による客単価の低下はボディブロウのように効いてくるもの。下がり続ける客単価を一時的とはいえ一気に好転させるには絶好のアイテムだろう。今年のシラスは絶不漁だったので、季節行事化した夏の新仔鰻は高額化が予想されるが、冷凍鰻の加工品を使えば極端な価格差別化が図れるので、それなりに訴求するものはあるだろう。

レトルト・パウチは予め湯煎or電子レンジとみえ、ものの数分でやって来た。まずは見た目。大振りの赤いプラスチック丼に1/2身が頭と尻尾それぞれ1枚で丁度一匹分。う~ん、4~3.5Pくらいかな? 予想よりかなり大きい(後注:4Pハーフカット規格品80gx2と思われる)。袋から捻り出しただけでレイアウトは雑だなぁ。この大きさなら、飯が見えてはいけないという鰻重や鰻丼の基本原則は概ね守ることができるんだから気を使えば心証ははるかに良くなるのに。背開き。アンギラ・ジャポニカ。焼きは典型的な機械焼きで、尚且つ浅めで身側の表面には焦げがほとんんどない。ひっくり返すと皮目はけっこう焼けている。それほどテカッていない身の厚みは思ったよりも厚い。皮は薄く、よく焼けている。タレは比較的薄色で、粘度は傾けると流れる程度に低くさらっとしているあたりも予想を外してくれる。タレの量は多い。盛った飯に予めタレを回し掛けた上に鰻を載せ、更にタレを掛けている。小袋の山椒がふたつ。味噌汁とお新香をつけた。もちろんビールも。計¥1350。

蓋がないので少し冷め気味。蒲焼特有の香ばしい匂いはあまり感じられず。牛・鶏以外に“和風カレー”から“和風チーズ”、“和風キムチ”まで扱う業態からして仕方のないところか。ビールを一口飲んで、さっそく鰻へ。箸で皮まで簡単に切れて驚く。身肉の断面は真っ白でよろしい。腹の真ん中辺りを一口。柔らかいというよりはフニャ。ホクホクでもなく蕩けるでもなく、まぁ、中庸。淡水魚特有の臭みはない。小骨も全く感じない。皮目の余分な脂は蒸されてしっかり落ちている。白焼きは甘いが蒸しはかなり入れている模様。タレを付けての蒲焼工程も比較的あっさり目。身肉にはほどほどの脂。分厚いというほどではないが、広東ないしは福建の露地池モノ特有の薄皮で、かなりふっくらとした身肉。焼きが甘いので香ばしさは感じない。坂東太郎や共水といったブランド養殖鰻や、老舗の契約養殖モノの香るような滋味(天然鰻は食べたことがないので不明)は感じられぬが、魚臭さが皆無で平均的で食べ易い。ちなみに2回目の方が身肉が厚めで脂も強かった。

蒲焼のタレは予想に大きく反して比較的サラサラ系。妙な出汁臭さのないさっぱりだが、薄甘で、キレがなく安っぽいのは業態や客層を考えれば仕方がないところか。微妙なツヤと粘度は水飴やキサンタンガムの類だろう。多糖類の代わりにもうちょい醤油を効かせれば、個人的には受け入れ易い味になるか。ご飯がかなり多い(大盛りか?)いが、底の半分ほどがタレでべちゃべちゃ(特に2回目)。タレは半量で十分だろう。甘いので飽きる。腹が苦しいぞ。山椒はほとんど香らないが、ちょっと辛めの典型的なおまけレベル。

変わり栄えのしない白菜お新香、業務用出汁の味噌汁はワカメと揚げの白っぽい合わせ味噌と特筆すべきことは特にない。丼に蓋をつけ、味噌汁ではなく肝吸いにでもなればいいけど、そりゃ業態的に無理だわな。鮨と回転寿司がまったく別の食べ物であるように鰻屋の鰻と比べる意味はないが、焼き置きの温め直しを平気で出してくるようなそこらの田舎食堂や、中間業者の冷凍倉庫で5年くらい眠っていたようなスーパーの“国産”惣菜蒲焼なんぞに比べれば、量とコスト、場合によっては質もずいぶんとマシかもしれない。うなぎで腹いっぱいとなると最低¥3000ほどは覚悟しなければいけない世情を鑑みれば、このコスト・パフォーマンスは侮れない。“炭火焼”とか“秘伝のタレ”云々の表示がないのにも好感したが、鰻は元々高級品だったのだから高級品のままでよいモノの一つと改めて思わないでもない。一応、近在での2例による評価。レトルト・パウチとはいえ、タレや焼き加減は地域によって変わる? と思われるので、全国他地域に当てはまるかどうかはまったく不明。

『草と香辛料』

鮨、天麩羅、蕎麦、鰻じゃ、読むほうもツマラナイだろうから自分なりに巾を広げようと努力はしているが、概ね玉砕に終わるのはなぜだろう? 岡田屋連結子会社が運営するなかでは客単価が最も高そうなファミレス業態『草と香辛料』。草に興味はないが、たまには香辛料を味わうのもよいだろうと初訪。

席に案内されて座るなり、水はドリンク・バーで自分で汲んでねと言われ凹む。生ビールは500円弱だがジョッキがちょいと小さいな。測ったわけじゃないが400mlほど。アサヒかなぁ? 数が出てないのか、フレッシュというよりは澱んだ印象。ターブルでもかまわないが、赤と白だけで銘柄も産地も表示がない葡萄酒はとても頼む気になれない。せめて甘口、辛口ぐらいは表示が欲しい。看板のパスタとピザ食べ放題のコースを賞味。パスタは数種の小麦麺かハンバーグ・ステーキから選択。ピザ(ここでは堂々ピッツァと表現されていた)はナポリ風と書かれていたので、小麦ばかり食う趣味もなかろうとハンバーグを選択した。

ハンバーグは思ったより大振り、120gほどで、盛り付けは良い。周囲に彩りパプリカや温野菜類が付け合わされ、ソースも見栄えよく掛けられている。肝心のハンバーグは冷凍の味付けボールを煮戻したような感触で、パン粉と玉葱で柔らかくフカされて、肉の粒感や噛み潰したときの繊維、旨味を感じないもの。ソースはかなり甘め。業務用デミグラスを主体にしたものだろう。葡萄酒等は控えめで、深みに欠けるが標準的には好まれる味と思われる。彩りにクロス状カスタードクリームか? と思ったら、マヨネーズソースで最初の驚き。

外では内食で絶対作らないものをという観点で、ベーコンや茸入りのクリームスープ・スパゲティも賞味。麺は細め、スパゲッティーニかフェデリーニ程度、茹で加減は若干柔らかめ。ソースは典型的な業務用ホワイトソースのくどい旨味で舌がピリピリするほど。レトルト・パウチじゃないだろうが、これは一人で平らげるのは難しい。塩味、甘味、旨味共にびっくりするほど濃くまとめられているが、メイン・ターゲットが好みそうな今の標準的な味といわれればその通りで、よくできている。

で、5~7種類程度のカットピースを焼き上がると持って廻る肝心のピザ、じゃなくてピッツァ。なんだが、まぁ、これをピッツァと言ってよいのだろうか? 生地は捏ねも焼きも甘く、小麦の味がしない。ネチネチしたパンのようなもの。ナポリ風? って違うだろ? 焼きたてが売りのピザだが、予めカットしたモノを持って廻って歩いているうちに、当然冷めてしまうのもマイナス。それにも増して最大の驚きはチーズにあった。想像を絶するほど貧弱というか、これ、(本物の)チーズ使ってないんじゃないか? 代わりに載っているものはいわゆる“とろけるチーズ”の類と、どこにも書いていないし、頼みもしないマヨネーズじゃないのか? ツナ? コーン? 明太子? エビ? 海苔? ジャガイモって何それ?……と、ようやく廻ってきたマルゲリータを摘んだらケチャップのように甘ったるいトマトソースに、生地と区別がつかないモッツァレラ風偽チーズ、ほうれん草みたいな極小のバジル? と、予期せぬヴィヴィッドな新鮮さをたっぷりと味わえた。

巡回頻度は思ったより高くケチ臭さは感じず、対応もよいが、ピザそのものの味で摂取量が自動的に抑えられるという、なかなか高度な手法で利益確保が計られているのだろう。緑缶の粉チーズ? やタバスコを持ってくることがサービスの一種になっている“イタリアン”にはここ10年以上足を踏み入れることはなかったが、名前から想像する通り、ドリンク・バーにヒトの幼生が群がり、一度座ったら3時間は粘りそうな、いわゆる女子供相手のファミレス・パスタ店。提供されるモノに対して割高なメニュー設定になっているのは、客回転が悪いことが前提になっているからだろう。ふと見回すと店内はベビーカーにお子様を御搭載なさって、お喋りに夢中のお母様たちでいっぱい。――だったのだが、入るまではわからんて。平日の1時30分過ぎ。ホール・レジを2人で廻している100席ほどの店舗だが、待ちなしでは入れたのは偶然だった模様。1時間弱の食事中、ほぼ空席なし。恐らく休日には待ちが出るほど繁盛しているのだろう。よしよし。更なる高収益を目指してもらいたい。

チェーン寿司居酒屋

pm2:00。30人ほど座れるカウンターに、客は2、3人。テーブル席はいっぱい。つけ場の職人はお決まり握りをせっせとこしらえて、大皿に盛り付けている。以前はそんなことなかったのだが、ネタケースのネタの大半は予め切り分けられており、“活け”を異様なまでに強調している割にちっとも旨そうには見えない。職人は2名。人数的には支障はないだろうが、昼にテーブル席のお決まりセットを散々握らされたせいか、お疲れの模様。自分からは口が効けないらしい初老の職人は話し掛けるな、仕事増やすなオーラを発散していた。憎たらしいことにこのオヤジ、技術的には過不足なく、握りは丁寧でネタの切りつけもまぁまぁ上手い。

ホール係は3人。以前はハラショーとかスパシーバとかイクライクラとか言うとキャッキャするロシア美人が酒を点けてくれたが、中学生みたいな中国娘に代わっていた。この子が客案内、オーダー、配膳、片付け、レジと七面八臂の大活躍で、日本人ホール係は客が帰ったカウンターを片付けもせず、ボーっと客に声を掛けられぬよう引いているか、暖簾の陰で職人とヒソヒソ話。ビールの空グラスを持ち上げただけですっ飛んでくる小妓は、聞き取りに若干難があり、話し方も微妙なイントネーションですぐにそれと分かるが、キビキビと見ていて気持ち良い。呼び止めてお茶と言えば熱くて飲めないのをすぐに出してくれるし、お代わりも勧めてくれて大変よろしい。

途中で入ってくる客はオバサン一人客ばかり。稀に老夫婦。酒は飲まず、一本穴子を目玉にしたようなお決まりセットを頼む人が多いようだ。暑くて喉が乾いていたので、まずは生ビール。グラスが小さい。350mlか? 楽勝で2杯。後で値段を見てびっくり。ネタケースを眺め、食えそうなものを選ぶ。

車海老>スミイカすだち岩塩>いわし>アワビ>鰹>本鮪中トロ>穴きゅう

どれも今一つ。車は昔は頭を塩焼きで添えてくれたが今はなし、隠し包丁一つ入っていないスミイカはまぁまぁだが、アワビはペラペラ。いわしは微妙に臭うし、特売ネタの鰹はタタキになっている上にこれまた臭うし極薄。鮮度保持剤で延命したような趣だな。本鮪にいたっては地中海の蓄養ものか? 脂乗りはそこそこだが養殖特有の臭いと締まりのない身肉、暈けたような色。鮨屋で出すようなものじゃないな。シャリは甘め。酢が香らないのは今は大抵、どこもそうか。割とどーでもいいと思わないと気が狂う。驚いたのはラスト、穴きゅうを頼んで、缶から取り出した海苔を見たとき。細巻き用の半切りとはとても思えない小ささ。面積にして2/3もないだろう。当然、できる細巻きもミニサイズ。の割にはよく巻けていて、オヤジの技巧に逆に感心した。

行く度に微妙に雰囲気が荒み、メニューが変わっているのはコソコソ値上げをしているから、というショウモナイ寿司居酒屋風だったはずが、回らない回転寿司レベルに堕しており、正直箸が止まった。金目の煮付けを頼んだら、アフリカ沖で獲れたような明らかに冷凍モノが出てきて以来、摘みの類は一切頼まなくなったが、立ち食いにはるかに劣るんじゃ、もう、握りも全然ダメだなぁ。

事情があって久しぶりに座れる鮨屋だった。平日の午後、昼時は外した時間帯。情けないことに旧省線の停車場徒歩5~6分圏には路面田舎鮨2、大衆鮨2、デパート・テナント3、寿司居酒屋チェーン3、回転4、立ち食い2ほどしか選択肢がないうえ、頭の4つは夕方開店なので最初から対象外。立ち食いも状況的に不可なので寿司居酒屋へ。漁港もあるし、陸送で産地からモノを仕入れている(観光客相手ではない)公設市場もあって、〇〇直送! なんていうのを売りにしてたりする店もあるのだが、何故かうまかった験しがない。この漁港、全国津々浦々の名立たる漁港とは異なり、採れるモノは限られてるし、漁期も決まっているし、収穫の最良品が地元に流れるわけでもない。春は鳥貝、浅蜊、夏は鰯、鯵、小肌。秋は鯖。冬は海苔。年中採っていいのはスズキくらいじゃないか? 採れるかどうかは別にして。市場だって休場日はあるし、海が荒れれば入荷はないし、需要がなければ仕入れないし、ないものはないわけだ。したがって、港や市場直送の良質の素材を用いた海鮮料理店や鮨屋などがあるワケもない。街中に一軒だけ、港で買い付けた魚を出す店があるが、営業は不定期、土日は確実に休み、週2日開いていればよい方と、ほとんど趣味の領域になる。むしろ安直なイメージ商売に寄り掛かれない、港のない町の鮨の方がうまいかもしれない。チェーン業態は大商社や仲卸・水産加工会社から直で安定供給されているから関係ないだろうが、いつもの立ち食いのあんちゃんが言うには、うちは社長の弟が(高速船で日帰り漁の特約)漁師だからやっていけるということらしい。

◇ Last Mapo-doufu

調理時間:20分

どんよりと蒸し暑い日が続くと花椒の痛烈な爽快さが恋しくなるというもの。となれば、ここ数十年で最も和食化した料理の一つでもある麻婆豆腐。自己流も極まり、最近はもっぱら羊肉を使う。残念ながら近在では入手性が極めて悪く、供給側の都合のみで提供されるこんな形状のいろんな部位を合わせた成形加工肉しか手に入らない。強いていえば稀にラムチョップを見かけるぐらい。シーク・カバブやドネル・ケバブも羊肉使ってない偽物ばかり。(大豆タンパクから合成した安物以外の)腸詰の皮は羊の小腸で、100%輸入(中国6割、オセアニア3.5割)されているのだから、肉本体も入れてくれればいいのにな。需要がない?

羊肉

転用を考慮して最初に炸醤(肉味噌)を作っておく。濃く味付けが施されるので肉質は全く問わない。小間切れにした羊肉300g弱を胡麻油で中火で炒め、色が変わり始めたら大蒜、生姜のみじん切りを加え、香りが立ったら弱火にしてピーシェン豆板醤大匙山盛り1。じっくり香りを立てながら1分ほど炒める。今回使うのはお玉一杯、100~150gほどか。

羊炒醤

作り方は以前と同じだが、最初に植物油60mlほどに一掴みの花椒を投じ、ゆっくりと熱しながら油に成分を抽出している。ガリガリするのが好きなので、残滓はそのまま。以後は大蒜+生姜+辣椒(赤唐辛子)各大匙2>ドウチみじん切り大匙1.5>炸醤(肉味噌)120g>P県豆板醤小匙2>老酒陳3年30ml>スープ250ml(お玉すり切り2杯)>手の平に乗せてさいの目に切り、湯通しておいた豆腐1丁>酒醸大匙1>胡椒5g>醤油小匙1>水溶き片栗粉30ml>化粧油(自家辣油使用)45ml>青葱散らす>挽いた花椒たくさん

麻婆豆腐製作中1

分量は2人前、すべて目分量と勘。豆腐は沸騰させない程度に予め軽く煮ておく。湯切りするとくっつくので直前まで鍋に入れたまま。塩茹ですると調整不能なほど出来上がりが塩辛くなるので湯掻くだけ。豆腐を入れたら掻き混ぜ厳禁。鍋を揺すりながらお玉の背で軽く押す程度。火加減は沸騰したスープを入れるまでは中火。お玉でスープを入れた瞬間、2割くらいは蒸発するような火加減。以降は強火で計2分ほどで切り上げる。片栗を入れたら底が焦げ付くぐらい30秒加熱。化粧油で豆腐をぐつぐつ煮る。

麻婆豆腐製作中2

豆腐は木綿よりも固い島豆腐が望ましいが、うちの辺りでは¥450/丁ほどと、とてもじゃないが手が出ない。葉大蒜は時期が終わりで葱で代用。スープは無塩の粉状既製中華出汁を使用。顆粒の鶏ガラスープの素は有塩が多く、けっこう塩辛いので適さない。花椒はS&B製100g業務用袋と四川の漢源を使い分け、ドウチは氷川が四川で陽江は蘇州だがあまり違いが分からない。茨城の浜納豆or塩辛納豆(麹菌で発酵させた黒納豆)でもいいんじゃないか? 主材は岡田屋の木綿豆腐1丁:¥57/400gくらいの量販品、羊肉:¥75/70g、調味料類は最も高価なピーシェン豆板醤(¥1350/kg)が15gで¥20ほどだから、いいとこ¥50はしない。計¥150/一人前と安上がり。¥500で出してもけっこう儲かるな。プロなら原価半分くらいだろうから、もっと儲かる。羊でなくて牛豚挽肉を用いれば肉は半額になるし、歴史の浅い地方大衆豆腐料理なんだから肉は50gもあれば十分すぎるだろう。出来上がりは肉が多すぎ。油が足りない。透き通るような真紅の花椒辣油にさいの目豆腐が浮いているようなイメージにはなかなかならない。

最近の麻婆豆腐

まぁ、辛いものは苦手なので、自分が作るものを自分で辛いと思ったことはない。味付けも自己流なので米飯にはまったく合わない。ああ、豆腐が1個崩れておりますが、ど素人なので許してね。切れ味のよいビールの摘みくらいにはなるか。


2010/07/01 作成__2010/07/06 最終更新