蟄居


軽く見積もって300匹はいる模様。外敵皆無の環境で共食いもせず、植物プランクトンや藻類を食べている。魚類は両生類をまるで存在しないもののように無視するし、猫も3秒ほど凝視して無視。水浴びに来る鳥類も完璧に無視と、最早気にしているのは人類のみの模様。5/1、追加で数千匹分の卵がクワイの根元に産み付けられていたので、このまま目を瞑っていると一週間後にはおたまじゃくし池になるわけだ。

おたま

GW流通途絶を鑑み、早めに八百屋で調達。いつ見ても人がいた験しがない、継続に疑義がある廃墟のようにうら寂れた元商店街に残った化石のようなスーパーの向かいに1年ほど前、唐突に出現した1軒。元々私鉄停車場近くのシャッター通りで商いをしていた八百屋だったが、改装改築で1階店舗、上部賃貸マンション化を計り、建物は既に完成しているのだが、仮店舗のつもりで借りた現在地の方が売り上げがはるかに良いため、戻るに戻れなくなったという話。個人的には全然埋まっていない賃貸部を気にした方がよいと思うが、家賃補償会社噛ましているのか、相続税対策ならどうでもいいのか。取り敢えずは、目と鼻の先で敵情視察して売値を決めているのか? スーパーに比べ半額~8割ほどと計ったような値付けだが重宝している。

クワイ

花が終わったエンドウはあっという間に鞘になる。見てるとわかるのではないか? というぐらいのスピードで。鞘が紫褐色であることがツタンカーメンの証。実が太るには、あと一月ぐらい掛かるか。月桂樹も開花。もちろんローリエ/ベイリーフとして食用のつもり。背丈1mほどの鉢植えを露地に定植したら一気に2mほどに伸びた。

えんどう鞘

GW流通途絶を鑑み、早めに鮨屋で飲食。天気悪い+休日が多くて仕入れ状況は今一つ。地元の鳥貝、青柳、とこぶし、鰹に加え、高くて買えない(店長談)桜鱒の代わりにマスノスケ(キングサーモン)のイクラ醤油漬を堪能。イクラというには少々小さいが、非常に滑らかな舌触りで、皮が薄く味はすこぶる良い。北海道と言っていたが、刺し網についでで掛かったか、河川の迷い鮭かもしれないな。時期も含め、生はモノ自体極めて珍しいというか初めて。モノはまだ未見だが、今年は資源枯渇のため長らく禁漁が続いていた小柴蝦蛄漁が再開されるらしい、という話を聞きながら蝦蛄、ホヤに鯨、煮ダコ詰め塗り他、腹いっぱい。

月桂樹

◇ かつ丼

簡単・節約・ヘルシーといえばやはりB級の王道、市井の駄蕎麦屋発祥の下手物中の下手物、かつ丼だろう。個人的には無理やり白飯と合わせて食べることもないとは思うが、下手をすると“とんかつ”よりも人気があるらしい。

簡単:玉子で綴じるだけと、調理時間が極小で失敗がなく、食器も極小で済む

節約:残り物のとんかつ処分に最適で、安価な国産肩ロース塊使用でもつゆや玉子で如何様にも誤魔化せる

ヘルシー:不必要な多糖類や塩分、タンパク加水分解物は皆無だし、衣でボリュームを演出する必要がないので、脂っこさを感じることもなく、トランス脂肪酸摂取量も当然少ない

と、お気楽で良いこと尽くめではあるか。もちろん、揚げ立てのかつを使った一部のかつ丼やかつ重とは比べるべくもないが、そこいらのEat outでは生卵のぶっかけ丼=かつ丼と認知されているようだし、出汁の味がしないのに濃い甘くどいし、醤油が尖っていたり、肉から衣が剥げていたり(プロの仕事じゃないわな)、重なってなくとも蓋付でないかつ重はありえないが、何故か丼になるとことごとく蓋が省略されてしまうこともあり、すっかりEat inメニューと化しているものの一つ。

◇ つゆ

かつ丼の出来はつゆの出来で決まる。つゆの出来は出汁で決まる。出汁は鰹。鯖節の混入は認めるが、枯れ節だけにこしたことはない。かつの下品な脂に負けない上品なキレが必要不可欠。いや、かつの上品な脂に負けない出汁の下品な力強さというべきか。外で食うと、昆布や椎茸が混入されていたり、合成ケミカル臭がしたり、あるいは出汁そのものがまったく匂わないことがあるが、そういうものをわざわざ自作調理する意味はないだろう。味付けは返し(煮切り醤油)のみでかまわない。醤油や味醂をその場で合わせたものとは違い、砂糖を使わずとも角が取れたまろやかな味わいになる。近在の非チェーンとんかつ専門店のかつ丼や蕎麦屋のかつ重では返しが使われていると思うが、コストは安いし保存性も良いので、自宅で和風の調理をするならば仕込んで常備しておいて損はないだろう。煮物、煮魚、蕎麦等、応用範囲は広い。工業的に促成された煮切り醤油(空気に晒しながら3時間機械攪拌で1ヶ月寝かした老舗の返しと(成分的には)同等という実用新案だか特許がある)というものもあるらしいが、使う醤油や味醂の質が伴わないことが多く、というか質の良い醤油や味醂を使えば基礎的な材料コストが上がるわけで、結果的に高価な“いんちき返し”では需要がない。

かつ丼

出汁は長持ちしないが、返しは寝かすほどに味わいが増すので、継ぎ足しに継ぎ足しを重ね、いつ作ったのか記憶にすらないことになる。昨今ではその手の物品を不衛生と断じる向きもあるので、相手を見て市販の麺つゆや割り下を使うのが業務の心得にして大人の嗜みではある。砂糖でも添加して甘辛濃厚アミノ酸たっぷりにしたり、目先を変えて、いっそのことソースでも掛けておけばお子様にも喜ばれ、売り上げも上がるというもの。

つゆを合わせるのに計量はしないが、浅い鍋かフライパンで軽く煮立てたら必ず味見する。かつに味が付いているから天つゆと同程度~若干薄めで十分。濃い場合は酒で薄める。つゆの量はかつの半分が浸かる程度。上面を煮汁に浸してはいけない。櫛切りの玉葱(昔は長葱)を敷いたら強火で1分、煮過ぎると食感を損なう。包丁を入れたかつを玉葱の上に静かに並べ、緑を散らし(たいてい野生化した芹、酔狂で山椒の葉、あればミツバゼリ・グリーンピースを使用)30秒煮たら、大雑把に溶いた溶き卵を1.5個/人、かつの上に流して蓋をする。強火のまま30~45秒で白身が固まり黄身が半熟状態になるので、その10秒前に火を止め、飯をよそった丼に盛り付けて蓋をする。以後は蓋で玉子の固め加減を微調整する。かつの形状からすれば、器は本来重箱とすべきだろうが、丼に盛りつけるのは簡易版ということなのだろう。“深川めし”あたりからの連想なのか、かつ丼に炙った刻み海苔を掛ける場合があるが、個人的には匂いが余計で、舌に貼り付く食感も浮いていると考える。

ミニかつ

溶き卵はあくまでもかつの上から周囲に薄く掛ける。かつのサクサク感を重視するあまりかつの上に卵を掛けない店があるが、それは本末転倒であろう。玉子丼にとんかつを付ければいいわけで、無理に丼にして食う必然性がまったくない。強いて言えば食器が少なくて済むという供給側の都合だけである。かつは表面積の85%が卵に覆われるよう調整する。とんかつ(定食)とかつ丼は似て非なる食い物である。かつ、玉子、つゆの三位一体こそがかつ丼の存在意義である。もちろん、鍋のつゆを掛け回してはいけない。載せた具材に含まれる汁気のみで味は十分に染みる。つゆは白飯の上部が色付く程度。丼底にまでつゆがべちゃべちゃ染みたものは犬の餌・ネコマンマという(少なくとも昭和までは社会通念)。

ミニかつ2

在のせいか、貧困のせいか、あるいは両方なのか、近在では国産豚のロース肉塊を適当な価格で入手するのが甚だ困難である。スーパーなどでは数日前に申し出ておかないと、塊や希望の肉厚のロース肉を調製できない。そんなわけで日常的に入手可能な肩ロース塊を用いることが多い。安いしね。100円/100gほどの塊は大きく厚みがあって適度に脂が多いモノがとんかつに向く。冷蔵庫でじっくりと放置熟成し、室温に戻した塊は25mm厚(120g~140g/枚見等、180g/人)にスライスする。厚くないと肉を食った気がしないからだ。安肉ゆえロースに比べ筋が気になるので、包丁の切先を脂身が走る方向と直角に突き刺してきっちりと切断しておく。両面を包丁の背で軽く叩いて面積を広げると柔らかくなるが、やり過ぎると肉を食っているという実感に乏しくみすぼらしくなる。

豚肩ロース

調味は塩、黒胡椒。肉面に手でしっかりと擦り込んで、最低10分ほど置いて衣を薄く着ける。パン粉はもちろん中細目の乾燥パン粉だ。リーン(Lean)で余計な植物油脂類を用いていない安価なもので十分。脂ぎって分厚い衣のバリバリかつが好みの場合は粗目の、ショートニングたっぷりのリッチな生パン粉を使おう。たっぷりの油(ラード25+キャノーラ65+焙煎胡麻10:かつの厚さを考えれば最低5cmの深さ)で二度揚げ。130~150℃程度の低温で片面3分ずつ、数分冷まして高温で1分ほどか。更に油切りをしながら2~3分置くとよく馴染む。中心にピンクが残る程度が望ましいが、所詮は思い付きの素人調理、なかなか思惑通りにはいかない。

とんかつ

かつはそのまま(塩胡椒下味)、レモン、ソース(どろ+ウースター)どれでもいける。和食だから洋風ソースは合わない。今回は素材肉の質を除けば、生肉の腐り具合も含め、肉厚20mm以上、衣厚1.5mm以下、肉は湿度を保持し質密で柔和、衣付着性、揚げ加減共に完璧であった。衣を食う趣味はないので、あくまで肉が主役である。かつを半径30mmの真球と仮定すれば、衣厚1.5mmの体積は17.8cm3だが、市販のサクサク厚衣を平均5mm厚と考えると、その体積は66.5cm3と3.7倍に達する。その50%に揚げ油が浸透していると仮定するだけで、腹いっぱい。

とんかつには赤出汁なめこ汁と漬物が定石。なめこなんぞ空調完備の工場で促成栽培しているのだから、1年中入手可能なわけで、赤出汁なめこがないという事態はありえない。というか二つで一つのようなもの。赤味噌の苦味が豚の脂をすっきりと洗い流すという先人の知恵に他ならない。一方、かつ丼(重)は本来蕎麦屋の若向け多角化メニューであって、とんかつ屋でかつ丼は扱わないのが(かつては)普通だし、蕎麦屋では蕎麦と組合わせて食うわけだから汁ものは付かなくとも問題はない。ただし、蕎麦屋以外のかつ丼にはやはり赤出汁が付かないと寂しい。幸い、赤出汁を出さないとんかつ屋は、生まれてこの方、お目に掛かったことがないが、当然、キャベツよりも優先順位は高くなる。

赤出汁

キャベツはなくともちっともかまわないが、必要ならば別皿で提供すればよいだろう。とんかつ、キャベツというそれぞれ単独ならば食えるモノを無節操無分別に和合重層した結果、どちらも食えなくしまっているという自虐的な試みには賛同できないし、刺身の下に敷いたつま大根のように、キャベツ以下は主材を載せる台と割り切って、かつのみを食うと割り切れるほどリッチでもない。特に、弁当状になって個々の素材の特性を削ぐ食い方を強要される場合は最悪で、温めても冷えてもおいしくはならない。うっかり電子レンジで温められたりすると、べちゃっと湿った甘いソースたっぷりの厚衣かつ、油が染みて湯気が立ってるキャベツ、芯が冷たくてソースの甘さがまとわりついたポソポソ白飯という三重苦で、もはや食いものの体をなさない。

◇ Lean or Rich

パンは麦粉とイースト、塩のみで作ることができるが、この国のパンは主食というよりは菓子や惣菜として扱われるため、砂糖をたっぷりと加え、高級なものはバターや卵、安価なものは牛乳、ショートニングに代表される植物油脂、各種添加材を加えることが売るための条理であり、必然になっている。米屋が精米を当たり前のように売るのと異なり、バゲットだけ売るパン屋は三日で潰れる。また、食感も歯応えがあったり、硬質なものは徹底的に嫌われるため、柔軟材や膨張材を多用したふわっふわっでモッチモチといった表現が横行することになる。身近でLeanなバゲットを入手することが困難になりつつあるとなると、この先、パンすら自作しなくてはいけなくなるのだろうか?

◇ ドライトマトの日和見ペペロンチーニ

ライプ・オリーブとドライ・トマト、パセリで世間受けを狙ってみた。オイルはたっぷり。これといった工夫はないけれど、別に原理主義者を気取っているわけでもないという証。

日和見

◇ あけぼの

春はあけぼの。日本がまだ曙だった時代から、100年の歴史(1913年製造開始)を誇る「あけぼの鮭缶」。かつての花形産業もオホーツクの権益をすべて失った後、排他的経済水域の設定とともに北太平洋からも完全に閉め出され、更には公海上のサケマス漁まで禁じられ、日本の北洋漁業は実質的に終焉した。「サケマスが食えないならば、トラウトサーモンか牛を食えばいい」ということですな。かつて北海道に進出した和人が、農業を知らずサケを主食としていたアイヌに、サケ禁漁という法律を制定したのとそっくり。因果は巡るなぁ。

今は北海道沿岸(一部ロシア領内)で細々と獲れる樺太鱒(名前はマスだが分類上はサケ:Pink)のみに資源が限定された結果、特殊な限定生産物を除き、樺太鱒を使った鮭缶は現在マルハニチロ社製(日魯漁業と大洋漁業の合併会社)かニッスイ製のみだと思われる。ロシアや北米の輸入缶は紅鮭(Red)やマスノスケ(King)、白鮭(Chum)を使ったものが多いようだ。また、鮭といえば一般には白鮭を指すが、アレは身肉がパサパサで、海鶏肉に代表されるツナ類缶詰のように遺伝子改良不分別植物油脂に漬け込み、出汁やエキスで調味、アミノ酸添加を行わないと缶詰としては食えたモノではない。安価な中骨缶も白鮭を使用したもので、「鮭缶」とは味が異なるもの。製品は製缶後、1年ほど寝かすことで追熟を計っている。出荷後もできれば食品庫の奥で数年放置しておくと、身肉と骨から出た出汁、脂がほどよく馴染みいっそうおいしくなる。

昨今は見向きもされない過去の遺物ではあるが、発売当初は貴重な蛋白源で、国内的にはもっぱら軍用食として生産され市場に出回ることが少なく、将軍様や軍医中佐を輩出した軍人一族の末裔ですら滅多に食べれるものではないご馳走だった。昔の缶詰は大家族仕様で特大だったので、缶切りで開けたものから少しづつ身肉が取り出され、各人に恭しく配られた。今はおかずにしたら一人分にもならない90gのEO平3号缶が主流と思われる。

曙

現在の用途はもっぱら摘み。あまりにも完結した味なので他の食い方を思いつかない。皮付中骨入り輪切り魚体の塩水煮と、味は恐ろしく(見向きもされないほど)素朴だが、いわゆる鮭とは微妙に異なる癖のないさっぱりとした特有の旨味が脂乗りと相まって、魚類であって魚類ではないような、絶妙な味わいを醸し出す。薄切り玉葱(辛いもの)とフウチョウボクの花芽酢漬け(Capers:ケイパーズ)、ピクルス、果実酢等と和え、胡椒を振るだけで最高の酒の摘みの一つになる。ビールならば温くクリーミィな黒、スコットランドやアイルランドの白っぽいウィスキーでも尚良い。

お子様に大人気の海鶏肉は某社の登録商品名だが、総称としてのツナ類缶詰を最後に食べたのは20年ほど前になる。先日、西洋食堂でピザを貰ったら、ツナにマヨネーズを格子状に掛けたものを出され心底驚いた。おおお。何という名の料理なの? ブロックにしてもフレークにしても元来味わいのある魚ではないが、脂ぎった魚を好む日本人の嗜好に合わせ、植物油脂や旨味調味液でいかようにも味付けできることが逆に評価された例なのだろう。そういえば昨夜も鮨屋でツナマヨを食ったが、缶詰の“ツナ”と鮨屋で食う“ツナ”はもちろん名前が同じなだけ。酔狂極まりないツナマヨは、あれば必ず頼む(あるいは、おまかせの最後に混ぜてもらう)ネタの一つ。


2010/05/03 作成__2010/06/02 最終更新