今宵は雪か


カワハギの肝のせは珍しくもないが、カワ肝というのは初めて聞いたので所望する。要するにカワハギの肝なわけだが、肝だけで出せるほど大物が入ったということ。見せてもらったが大きいものは20cmほどとアン肝並み。アン肝同様に蒸し上げて寝かす。軍艦にたんまり盛って、紅葉おろしと葱を散らしてポン酢で食う。アン肝よりひときわ密度が濃く、濃厚でありながらも繊細な味わいと滑らかな舌触り。

宜賓(イービン:市の名前)芽菜(ヤーツァイ)という漬物を買ってきたので、さっそく麺にする。真空パック450gで450円くらい。味見。30分塩抜きして使うと書いてあるが、そのままでもきゃらぶきの佃煮のような趣きで美味。老酒の摘みに丁度良さそう。

芽菜

器に練り胡麻、擂り胡麻、鎮江香醋、老酒、三温糖、老抽王を3:3:2:2:1:1になる程度に合わせておく。四川の黒酢は手に入らんので鎮江で許せ。ギネスは入れてはいかんよ。挽肉がないので鶏のササミを適当に切り分ける。胡麻油を引いたフライパンで、大蒜、生姜、赤唐辛子みじん切り、一掴みの花椒粒を中火で炒め、香り立ったらP県豆板醤30gを加え尚よく炒める。厨房が異国状態になったら鶏ササミ、塩、胡椒を加え軽く火を通して置く。同時に麺を茹で始める。茹で湯50mlで器の混錬物を溶き、麺が茹で上がったら胡麻油をまぶし、器に盛る。フライパンの中身、刻み葱、刻み芽菜、刻み香菜をトッピング、辣油をテレッと回し掛け、花椒粉をぶっかけたらグズグズに掻き混ぜて食う。咽るコクと突き抜ける清涼感。辛辣は忘れた頃にやって来る。悶絶。醤油は普通の醤油でよさそう。次回再挑。

麺

■ 冬といえば牡蠣

牡蠣

今年はちょっと高いぞ。一番安くて70円/個。これは88円もしやがったので5個/人しか買えなかった。情けない。宮城産。選ぶというほどのこともないが、試行錯誤の末の結論としては、殻の平面的な大きさよりも厚みに拘ったほうが良いようだ。ある程度の水分があればビニール袋の中でもかなりの期間生きている模様。まぁ、買った翌昼に食べることを旨としているのであまり先のことはわからないが、2、3日なら楽勝。食べる直前に剥いてレモンを搾るだけ。酒はビールでも白葡萄酒でもかまわない。それだけでは物足りないのでパスタでも作る。具はペペロンチーノにサヤエンドウを入れるくらい。オリーブ油たっぷりの何の変哲もないオイルパスタ。味付けは塩・胡椒のみ。簡潔な滋味には簡素なパスタが似合う。

サヤエンドウ入りぺぺ

◇ 代用ミートソース(Definitive Edition)

調理時間:30分?

昭和の時代、ナポリタンの次に登場したスパゲッティーといえばミートソース。0から作るというよりは、缶入りやレトルト・パウチ品として普及するほうが早かったかもしれない。ナポリタンがソース・ヤキソバのトマト・ケチャップ版のように茹で麺を炒めて提供されたのに対し、誰が考えたのかは知らないが、こちらは茹で麺にソースをトッピングするという、一見日本人好みの清廉なイメージだが、作る側にとってはいちばん手間が掛からない安直な形で、ナポリタンと同じく緑筒の粉チーズ風調味料、タバスコと共に提供されるのが一般的であった。肉+ケチャップ・ソースの赤さが白っぽい麺に映えたものだ。ナポリタンが古臭い洋食屋の味ならば、ミートソースは喫茶店で隆盛した軽食の味だったように思う。

近在の岡田屋に出掛け、牛豚合い挽きの肉(半額見切り品)を0.5kgほど調達する。この岡田屋、肉が若いのか、何らかの処理を施しているのか、なかなか色が変わらないのが玉に傷で、肉自体の旨味に乏しいのだが、全国津々浦々に普及したジャパニーズ・スタンダードだからやはり日本の味:スパゲッティーといえばミートソースには最適というものだろう。香味野菜は玉葱1、セロリ0.5、人参0.5(ここまで必須)、おまけでパセリ茎3。副菜はポルチーニが買えないからマッシュルーム300g。香辛料は肉桂の乾燥皮、月桂樹の乾燥葉、黒胡椒、丁子(丁香の枝)、オレガノ、大蒜2粒、赤唐辛子3本、普段は使わないが豚肉対策用にナツメグ。

最初に冷たいフライパンに刻んだ大蒜と香辛料、オリーブ油を引きトロ火で点火。じっくりと香りをオリーブ油に移す。香りが立ったらみじん切りにした香味野菜を玉葱、人参、パセリ茎、セロリの順に加え、中弱火で焦がさないように、玉葱が透明になるまで炒める。完了したら別鍋に移す。

新たにフライパンを加熱し、温度が上がったら再度オリーブ油を引く。油の温度が十分上がったら、挽肉にナツメグ振って、強火でしっかり炒める。あまり捏ね繰り回さず放置気味、高温で焦げ目がつくくらい。挽肉は含まれた水分が蒸発する過程で粒がパンパン跳ねて「熱いぜ畜生」となるので判り易い。しっかりと炒めないと旨味が出ないし、臭い。ミートソースの勘所は肉の不要な水分を赤葡萄酒やトマト、香味野菜のエキスと入れ替えることにある、ような気がする。

横着をして野菜に肉を加えて炒めると、肉から水分が抜ける前に野菜が焦げつく。それを避けると結果的に水っぽいソースになってしまうが、そこに固形コンソメ・ブイヨン類やトマト・ケチャップ等の多糖類を大量添加して甘ったるい即席コクを演出したものがミートソース標準品として大手を振って歩いてしまっているという意味では、一般性を追求するならば、かえってそうすべきなのかもしれない。その場合は“水っぽい”は“さっぱりしてる”と読み替えるが大人の嗜みというもの。

焼けた肉を鍋に開けたら、マッシュルームの半量スライスを加え、ここからようやく煮工程。普通の鍋で普通に煮る。「赤ワイン」と漠然と言われても困るので、その代わりに赤葡萄酒:サン・ジョベーゼ種の中口程度、800円/本を抜栓し、味見をしながら、あ~もったいねぇと嘆きつつ500mlほどを鍋に。トマト缶400gx2(カット1、ホール1)はザルで漉して、ホールは実を掴み手で握り潰し、具のみを鍋に入れる。最初は強火。アクが浮いたらすくい、沸騰したら弱火に落とし、ときおり掻き混ぜながら、そのまま普通に1時間煮る。時間が来たら、塩と胡椒で味付けして放置。

火入れと冷却を3日ほど繰り返し、すっかり存在そのものを忘れた頃、おもむろに乾麺を茹で始める。ソースは味わいに重厚さが加わって、煮上がった状態とはかなり異なっているはず。麺はいろいろ在庫を漁るが、ミートソースといえばやはり何の変哲もない中庸なスパゲッティーを使うにこしたことはない。その組み合わせの極意は理解できないが、ママー等国産品がないのでチュニジア産の乾麺1.4mm(178円/kg)、125g/人で代用する。量は気分だが、昔は500gを3回で食い切ったが、最近は4回分になる。

今回はミートソースなので、麺はボロニェーゼ風にパン上でソースと和えず、直前にバター30gをソースに溶かし込む。トマト缶によっては酸味が足りないので赤葡萄酒酢で補強する。残りのマッシュルームはバターで炒め、麺を盛りつけた上に載せ再加熱したソースを回し掛ける。また、理由は不明だがチーズも事前に和えず、後掛けとする。器に麺を盛り付けたら、こんもりと高さ15cmほどにソースをたっぷり載せる。人参が目立つが眠かったんだ、許せ。残念ながらあの緑筒の粉チーズ風調味料はないので、代わりにグラナ・パダーノの塊を50g/人ほど下ろしたものを躊躇いなくどばっと振り掛ける。茹で麺250gにソース300g、チーズ50gで総重量600g位になるはず。軽く1000kcalは越え、1500に迫る勢い。おおお。堂々、懐かしのミートソースの完成である。

サヤエンドウ入りぺぺ

う~ん、麺がソースに負けちゃって弱すぎる。卵麺やごっつい生パスタじゃないと太刀打ちできない。ソースは概ねしつこく、一度食べたら数ヶ月は見たくもないし、転用といってもラザーニャかカネロニ、ミートパイぐらいしか応用が利かず十分持て余すので、1週間ほど火入れを繰り返し転用するだけの量を勘案し、必要な分を必要なだけ作ることにしている。

◇ 豚肉に下味を付けて揚げたものに糖醋を絡ませたもの

下準備:20分 本調理:30分

買ってから1週間ほどパーシャル室で忘れられていた国産豚肩ロース塊600g。98円/100gって牛肉並みに高価で躊躇したが、在ゆえ塊肉は入手性が悪いので買っておいたもの。買って来たらそのまま冷蔵庫に突っ込まず、一度キッチンペーパーなどで表面の血や水分を取って、そのままペーパーに包み、ビニル袋で密閉して冷蔵庫に入れておくと、じっくりと蛋白質が変性しアミノ酸が増えますが、“鮮度”至上主義社会では法律上、あるいは社会習慣上、許されない行為なので真似をしてはいけません。

肉は二口大(そんな言葉あるのか? つまり4 x 4 x 6cmほど)に切り分け、表面を軽く叩くなり包丁先でプスプス突き刺して下味が染みやすく、かつ食感が柔らかくなるよう処理を施す。処理後の肉はボールに集め、塩5g、胡椒10g、五香粉10g、生姜親指の先っちょ分を下ろしたもの、卵白1個分、老酒50ml(老酒25ml+水25mlでも可)でよく和え、空気に触れぬようラップをぴったりと張って一晩冷蔵庫に入れて置く。翌日、早めに冷蔵庫から出し、肉を常温に戻す。肉は酒の水分を吸ってぶよぶよになっているはず。

甘酢餡の準備。生姜、葱を各々みじん切り、トッピンッグ用白髭葱と香菜も準備して冷水に晒しておく。老抽王、老酒、鎮江香醋、三温糖ないしはザラメ、塩、水溶き片栗粉を並べ、鶏がらスープは沸騰させておく。砂糖を黒砂糖にする場合は老抽王は諦めて普通の醤油が適当だろう。くど過ぎて飽きる。

中華鍋に油を張って160℃ほどを保つ。肉に片栗粉を振って、しっかりとよく練る。余分な粉をはたいたら静かに油に入れて揚げる。2~3分ほど、表面が軽く色付いたら一旦ジャーレンに上げる。火を強め180℃で2回目。肉を戻した瞬間、油がブォワと泡になって膨れ上がる程度の温度で20秒。再びジャーレンに上げる⇒戻すを計3回ほど繰り返す。その頃には衣がいい塩梅に色付いているだろう。冷熱を繰り返すことで、火の通り難い素材を外はしっかり、中は柔らかく蒸し焼き状に揚げる常套手段。

揚げ油を他所へ移したら、直ちに中華鍋に胡麻油30mlを加え加熱。油の温度が上がったら弱火に落とし、生姜と葱のみじん切りをじっくりかつ手早く香り立つように炒める。スープをお玉1ほど入れたら強火に戻す。三温糖、老抽王、塩、鎮江香醋の順に調味料を加え、味見。煮立ったら水溶き片栗粉を加え、揚げた肉を戻し、餡を絡めるよう適度に煽る。すぐに化粧油に胡麻油を回し入れ、油が浮いたら火を止め、器に盛り付ける。肉を入れてから火を止めるまでは30秒ほど。テレテレすると衣がへたるし酢が飛ぶ。砂糖・酢・醤油の割合は1:1:1でよいと思う。醤油が老抽王でない場合は塩追加は不要。

酢豚

ごろんとした肉に齧り付く。外殻のしっかりした歯応えと、内部の柔らかでしっとりした肉の旨味の差異を愉しむ。すげえ肉肉肉肉だが、肉自体は脂っこくなく、味付けもさっぱりなので、おお! いかんいかん! と言いつつも平気で300gほど食う。置いておいても冷めた餡ものに存在価値はない。甘味もすっきりでくどくはないが、甘くなくはないので酒は薄めのビールに限るかな。付け合わせはピータン辣豆腐と袋竹とセロリの鶏がらスープ、搾菜と芽菜の漬物に米飯ということで。

pi-tammtoufu

「酢菜」ではないので、ポイントはもちろん肉である。肉のおかずとして肉はある程度の大きさと量が必要なことは言うまでもない。脂が少ない安い肉でも酒に漬け込んでたっぷり水分を含ませてやれば雲泥の差。4000年の搾取と貧困が生み出した知恵というもの。肉の揚げ加減も味を左右するから、準備は入念に、揚げた肉が冷めないよう調理は手早く。緊張と集中の賜物だ。醤油と黒酢の味付けで決まるので、大蒜は不要。大蒜に引き摺られてしまう。ちなみに鎮江香醋は180円/600mlと国産の健康食品紛いの黒酢に比べれば破格に安く複雑な香りと旨味を持つので使わない手はないが、薦めはしない。


2010/02/01 作成__2010/02/01 最終更新