年寄りの冷水


12月中に更新しようと思ったのだが、寝てしまったじゃないか。おかげで早く目が覚めたが、やはり気温が上がってから起きないと熱環境が悪過ぎでコスト高になるな。以下、時制が微妙に狂う部分があるが、すべてはそのせい。ちなみに季節行事や世俗習慣とは基本的に無縁でフラット、積極的には何もしないが他人の意向を妨げてまで主張することもないという生活行動を送っているので、メニューから何らかの関連付けを予想させるかもしれないが、実は唐突で脈絡がまったくない。

今年最後の紫蘇の穂を摘もうと思った翌朝、霜が降りたらしく葉っぱもろとも全滅。晩の天麩羅がふいになった。蕎麦つゆ用の返しを作っていたら、味醂に火が入りやがって笑い。鮮やかな紅色の炎の色に見蕩れたら、取り敢えず火から離して鎮火するも、醤油を入れて再度火に掛けてうっかりしてたらまた火事だよ。あーあ。醤油入れてから火が入っちゃうと苦くて使い物にならんのだよなぁ。ぴーぴーウッサイから離した所(台所は設置義務外)に余興でつけた熱感住宅用火災警報器はもちろんうんともすんとも言わない。

隣町の鮨屋に頼んだ鮪を取りに出掛ける。同居老人が鮪を所望するが、そこらで売っているものを見分ける目はないので頼んだもの。ずしりと重い。3kgくらいはありそう。ついでに遅い昼飯とするが、珍しく行列ができていて笑った。それも騒々しい集団とちまちま・ぐずぐずしたカップルばかりで萎える。気を取り直してほんのりピンクの縁側と鮑を剥いて貰ってさっさと退場。あとは河豚の白子が出たら春だなぁと、疲弊した店長に一応アピール。うちの辺りのような在とは違い、街の驚くほどの活気に目を見張る。老人しかいない閉鎖的で陰湿な集落と老若男女で多国籍化するごった煮の坩堝との差はいかんともし難い。

鍋焼きうどんはやめて今年は掻き玉うどんでうどん終い。ほぼ同じ作り方をするが蕎麦の場合は玉子綴じ蕎麦といい、掻き玉蕎麦というのは存在しない。今年は外食を含め、画期的にうどんを食べた(7回くらい)年でもあった。安価な西日本風うどんの隆盛には目もくれず、我が道を行く山田うどんでは普段の麺とは異なる平打ちを食べる機会もあったが、こちらは腰がなくふにゃふにゃ。つゆも塩分過多だったり、そうでもなかったりと味が安定していない。かねてから疑問に思うこともいくつかあるので、来年はもう少し幅を広げて各所廻ってみようと考えている。

出汁

玉子2個は予めよく溶いておく。出汁は面倒だから蕎麦用の鰹出汁を転用。枯れ節に鯖節を若干加え、上品とは無縁に色濃くしっかり煮出したモノ。最近は2週に一度くらい作ってペットボトルで冷蔵保存している。返しと合わせるわけだが、うどんつゆにするには甘味が欠如しているので酒と味醂をテキトーに足して火に掛ける。うどんが茹ったらしっかり湯切りして器に盛り付け、一面をぴったり覆うように焼海苔を敷き、同時に沸騰しているつゆに箸で渦を作り、溶き玉子を細く、手早く落とし、ほんの数秒。玉子に火が通りかかった瞬間、つゆごと器に静かに回し掛ける。葱を載せて後はひたすら食べるだけ。玉子と海苔を多層構造化する老舗の真似はできないが、ピンクの蒲鉾や貝割れなどを載せると、もうちょっとお店風になるかな?

掻き玉うどん

玉子のおかげで味は暈ける。良く言えばマッタリと優しい。悪く言えばキレがない。玉子が貴重品だった時代の花形も、今となってはメニュー落ちの欠番。老境にさしかかったおっさんがノスタルジーに浸れるぐらいが関の山。ちなみに月見蕎麦・うどんというものは、できあがった掛け蕎麦や掛けうどんに生玉子をぼっとんと落としたモノでなく、麺を器によそったらそっと崩れぬように玉子を落とし、熱いつゆを上から静かに掛けて、その熱で墨絵の雲と月のように玉子をふんわりと固めた、江戸期からの中秋の風物詩であります。

◇ 鶏そば

調理時間:15分

鶏肉(特に手羽等骨付き肉)を使うと、煮出したスープが余ることがある。そんなときには鶏そばを作ることにしている。昭和の時代の町の中華店などではよく見かけたメニューだが現在はほぼ絶滅したことだろう。強いて言えば、某高級和風中華店のセロリ麺に近いかも。やはりかつての昔、蕎麦屋には「とり蕎麦」といって、鴨ではない安価な鶏肉の入った温かい蕎麦があったが、あちらは概ね「鴨南」に集約されたのではないだろうか。鴨ではなくとも鴨と称することが認められた稀有なお品書きである。

鶏そば

麺はカンスイ入りの普通の中華麺。副菜はセロリ、刻んだ搾菜に加え、今回は余っていた蕪の葉を消化している。薬味は葱、味付けは塩、醤油、紹興酒、香り付けは五香粉、胡椒と簡素の極み。鶏肉は塩茹でしただけでも十分旨いが、大蒜、生姜で軽く炒めたものを使うといっそう香りが際立つ。

◇ 焼かれた牛肉

調理時間:1時間(実働30分)

薄くスライスされた生肉を供され、自分で焼いて食べる仕組みは、かつて「朝鮮焼肉」といわれ、当時は一般にほとんど流通していなかった特殊な部位を多用し、なおかつ、牛肉が特に高価だったゆえ、気軽に口にできるものではなかったが、今は安価なチェーン店までが隆盛し、若者の間だけでなく至極一般的な階層に焼肉のスタンダードとしてすっかり定着した感がある。小学生の時、親父に連れられて初めて行った朝鮮焼肉の強烈な大蒜臭と、肉を如何に減らすしか考えていない日本的食卓メニューに比してふんだんな肉三昧には人生観がひっくり返るほどノックアウトされたものだが、さすがにこの歳になると躰が尻込みをしてしまう。記憶を辿っても5年ほど前に食ったきりだが、この先食う機会はもうないだろう。

買ってきたばかりの肉は若く、見映え優先のため赤くて水気が多い傾向にあるので、キッチンペーパーなどに包み水分を取りながら冷蔵庫で数日~放置(忘れているともいう)する。タタキにする場合は置き過ぎると臭くなるが、火を通す場合は肉色がくすむまで置いたほうが旨味が増すように思う。いわゆる「鮮度」には興味がないし、都会の洗練されたグルメや、産地の採れたて素材には縁もゆかりもない現代の流通事情から取り残された在住ゆえ、鮮度に拘ったようなモノが入手できるわけもなく、非冷凍モノの鶏で死後2~3日、豚なら10日~2週間、牛に至っては20日~一ヶ月程度ならマシなほうなのが近在の実情であり、自ずと素材にはいっさい「拘れない」という前提に置かれた負け惜しみで材料を選ぶことを常としている。ということで、死後一月ほど経ったくれぐれも霜降りなどではなく、98円/100gの赤身ロースこそが満足できる肉の味というものだ。

生肉

塩はイオン交換膜法で精製した100円/kgしない国産海塩、胡椒はインド産180円/100g程度の黒胡椒を挽いたもの、料理用バターは四つ葉有塩、赤葡萄酒はスクリューキャップのスペイン産メルロ:398円/720ml、オリーブ油は極特殊な用途を除き780円/lくらいでよく売っているスペイン・ギリシャ・トルコ産あたりのもちろん圧搾したカスから溶剤抽出した安物のブレンドということで拘りの欠片もない。

焼き目付け

0.5~1kg程度の冷蔵塊肉は半日前に冷蔵庫から取り出し、新しいキッチンペーパーに包み直して常温放置、肉内部を常温(15℃くらいかな)に戻しておく。食事の1時間前になったら、塩、胡椒を手でしっかりと肉に擂り込み、15分ほど置く。置き過ぎると肉が固くなるので注意。その間に香味野菜を適宜刻み、半量をオーブン皿に敷いておく。オーブンは170℃程度で予熱を始める。熱したフライパンにEXVオリーブ油を引き、油の温度が上がったら、手で肉を掴み、ブロック各辺をパン底にぐいぐい押し付けながら、強火で手早く焦げ目が付く程度に焼く。稀に指先が焼けるが火傷するほど焼き過ぎることはないので気にしない。外殻を焼くことで内部の血や脂の過剰な流出を避けるためなので、中まで火を通してはもちろんいけない。

焼き上がり

焼いた肉はオーブン皿に敷いた香味野菜の上に載せ(肉は野菜を土台に浮かす)、残りの野菜をまぶし、EXVオリーブ油を15mlほど垂らしてオーブンへ。焼き時間は機種のクセや肉の質、形、その日の気温・湿度などに拠り再現が難しいが、うちの場合、600gで150~170℃、20~30分ほどが目安かな。最初はたいてい失敗する。火の通り過ぎた肉ほど無味乾燥なものはない。焼き加減を追求するには試練3回。満足のいくモノになるだろう。

焼いた肉

肉が焼けたら、肉のみを取り出し、アルミホイルにざっくり包み室温で30分ほど放置、落ち着かせる。銀製の蓋付の入れ物があればベストこの上ないが、そんなものがあるわけないだろう。すぐに切ると血や溶けた脂が流れ出てしまう。その間にソースを作る。添え菜が好きな人はここで合わせて作ると良いだろうが、肉料理を肉以外でフカすのは品性が下劣と考えるので基本的にはまったく拘らない。オーブン皿に残った野菜屑、肉から垂れた液体、焦げた肉片などを掻き集め、赤葡萄酒100mlほどを加え、鍋に掛ける。10分ほど煮立てたら野菜屑を笊で分離、ヘラと手でゴリゴリ・グチャグチャ漉して野菜エキス分のみを鍋に戻す。塩、胡椒、バターで味を調えた頃には肉も落ち着いていることだろう。

焼き過ぎ

肉は外食店じゃないのだから食いたい分を食いたいだけ、肉の繊維と直角方向に5mm~8mm程度に分厚く削ぎ切り、真ん中の火の通り加減が最適の部分から盛り付ける。と思わせて、隅角や端部の香ばしい部分もしっかり確保する。

肉ばかり

ソースを掛けて山葵を添えれば出来上がり。飯のおかずではないので、つけ合わせにヨークシャー・プディングを同時に焼くか、パスタかパンを少量用意しておくと口休めになる。皿を庭のテーブルに運び、黒ビールと共に心地良い日差しを浴びながら、刈り込まれた櫟の潅木と乾いた芝の匂いを背景に食べる、といいたいところだがそんな庭があるわけがない。残った部分は翌日、マスタードをたっぷり塗ったサンドウィッチに挟んで、3時のおやつ、ジントニックの摘みに。


2010/01/01 作成__2010/01/01 最終更新