燦々


なんだこの暑さは? 来春用のセグロイワシを塩漬け。合わせて700gくらい。鱗を落とし、大きなモノを5匹ほど捌いて刺身で食う。飽きたら残りは水気を拭き取って、タッパに塩でサンドウィッチ。翌日、水が出たら空気に触れないようにペーパーで覆い、戸棚の奥へ。
取敢えず繋ぎに今年も「ふさおとめ」。食感や香りは「ササ」とはまったく別系統だが、新米はやはり瑞々しい。水加減や火加減を上手く調整して、自分好みの飯が炊き上がったときの喜びには代えられないものがある。

しこいわし

昨今は飯炊きも外注化が進んでおりまして、近郊には最新設備を導入した24時間稼動のご飯工場が増えている。納入先は安い白飯を大量消費する給食や仕出屋でないところが、あまり大きな声で宣伝できない仕組み。顧客の多くは名だたる高級ホテルや高級外食店で、米の品種、炊き加減はもちろん、各店の微妙な配合に合わせた酢加減、塩加減で握り用の酢飯までを炊き上げて配送している。店にとっては飯炊き番を雇わないで済むし、品質は安定しているし、何か問題が起きても責任の所在を明確にできる、と良いこと尽くめなので瞬く間に広がって、日々、グルメな人々に舌鼓を打たせていることだろう。

うどん

蕎麦が形式にがんじがらめで質の差異が極端に表れるのに対し、うどんは相対的にボロが目立たない。特に、このあたりのうどんは縛るものがないためか節操が無さ過ぎで、メニューの言葉だけではイメージし切れないとんでもないモノを引き当てたりすることがあって面白い。蕎麦は常に酒と共にあるが、うどんはやはり、蕎麦には無いか、あっても蕎麦には合わないメニューを中心に選ぶことになる。鍋焼き、味噌煮込み、カレー、肉、花巻なんかはうどんの独壇場だろうし、具が茸系、山菜系、海草系の場合も蕎麦と合うとは思えないから、必然的にうどんになる。外気温が5℃程度になると、玉子綴じ、すき焼き(の具がうどんにのっている)などにも心惹かれるものがある。細麺なら冷たい笊もよいが、太いのは辛いという要因もあるか。近在の独自メニューにタヌキうどんがあるが、あれは、「タヌキ≠狸、タヌキ=種抜き=揚げ玉≠天カス」であって、狐との対比で語るものではない。

蕎麦には少ないが、うどんに付随して頻繁かつ安直に目にするアイテムに生卵がある。月見だけでなく、溶き玉子を麺に和えたりする仕様が流行っているのだろうか? うっかりサービスでのせてくれたりすると困っちゃうんだよな。別に食べれないわけではないが、生卵(鶏、鶉、家鴨他)が目に入る料理は受け付けない。というか、生玉子は素材であって、決して料理ではないと認識している。今でもはっきり憶えているが、小学校3年の夏休みが近い日曜日の朝、いつものように卵かけご飯にしようと、飯に掘った穴に卵を落として、いざ掻き混ぜようと思った瞬間、自分でもよくわからないが濡れた黄色と白身の透明感がたまらなく嫌になって、それ以来一切口にすることがなくなった。納豆に卵の黄身は入れるし、カルボナーラの玉子はチーズと練られているとはいえ生に近い状態だし、メレンゲは泡立てるし、黄身が生の目玉焼きも温泉玉子もポーチドエッグも普通に食べるが、非加熱の生の卵だけは自らの信条に忠実に従って今後も食べることはないだろう。

彼岸中日

ついでに書いておくと、大昔からずっと一日二食だが、朝飯を食べなくなったのもやはり生卵に起因する。小学校も高学年になると、旅行に行ったり合宿があったりと外で朝飯を食う機会が増える。今は知らんが、当時の旅館の朝飯といえば生卵が定番で、それを除くと、海苔と漬物などという辛気臭いものだけで、子供にとってはおかずがないという状態が当り前だった。おかずがない⇒飯が食えない⇒朝飯要らない、という必然の論理ですな。海外では経験的に生卵を出されたことはただの一度もないので、安心して朝飯が食える。もっとも、朝っぱらから脱力するほど量が多く昼が食えなくなるので結局一日二食というのは変わらないが。

で、うどん。普段は年に2、3回食べるか? という程度の頻度だが、2ヶ月で3回食べてみた。外でうどんを食ったのは、1997年ごろ、共産党の真向かいのうどん屋か人形町の関西風の店で食ったのが最後なので、なんという快挙。

 ■はなまる (訪問店数2/徒歩圏所在店数2)

讃岐出自の讃岐うどんチェーン店。現在は吉野家系列の子会社。トレイを持って客が移動する学食みたいなセルフタイプ。

冷たい「ぶっかけ」と冷たい「醤油」を賞味。冷たいとはいっても冷水で締める程度の冷え具合。麺は中太、長方形断面で5mmx6mm程度、エッジは落ちていて喉越しは平凡。機械練りの板状の生地を機械裁断したものだろう。腰はあるほう(キャッサバ澱粉か?)だが微妙に粉っぽくて舌触りが悪いのは機械練り中太麺の宿命か。出てくるスピードを考えれば明らかに茹で置き。生麺から茹でるのはメニューを眺める限りにおいては“釜上げ”(釜玉もか?)だけだろうが、温かい素うどんを食べるという習慣はないので食指がまったく動かん。麺の量は選択できる。最初は勝手がわからず標準的な量と思われる中を頼んだが、かなり多い。味に変化がないため途中で飽きる。適量は小だろう。

ぶっかけつゆの出汁はイリコ主体で、濃口醤油で味付けられた透明褐色。塩分を控えることに興味がない私にとっては塩加減は上々。甘味をかなり追加することで、まろやかな風味に仕上げてはいるが、Webのpdfでは「ぶっかけ中」で4.8g(NaCl相当量)と表示されている。腰を出すためにうどん自体にもかなりの塩類が添加されているのだろうが、茹でる段階で流出するともいわれているから、やはりこれはつゆの仕様なのだろう。ちなみに国の推奨値は10g/day。個人的には12g/dayくらいないと無気力になる。一方、「醤油」の醤油は明らかに多糖類が添加された甘醤油で、少なくとも加熱処理されない本醸造の生醤油ではない。薬味は青葱と辛味のない大根おろし。「ぶっかけ」にはレモンが添えられている。

天麩羅は野菜かき揚げを食べてみたが、胡麻油を使わないサラダ揚げ。残念ながら冷え切って湿っており、衣の状態や具に関してどうのこうのという状態ではなかった。揚げ玉ではなくて天カスを自由裁量でトッピングできるようだが、こちらは使ったことはない。腹持ちもよく、麺単体の価格は安く感じるが、原材料費やセルフという事情を鑑みれば利益率はラーメン以上にかなり高いと思われる。総じて甘ったるいのが難点だが、価格や女子供の食い物という市場性を考えれば仕方がないことなのだろう。ちなみにホットの「かけうどん」のみ、他メニューに比して半額という異様に安い価格設定になっているが、「かけうどん」を食べない人間からみると極めて愚弄されているような厭な気分になれる。

味を忘れない内に山田うどんと丸亀製麺も食べてみよう。徒歩は気が乗らないが、車なら15分ほどのところにあるのは知っている。うどんで酒を呑もうとは思わない(置いてあるのか?)ので、車でも不都合はないことに今更ながら気付いた。

豚バラ肉の香味煮揚げ蒸し

調理時間:1.5日(実働2時間)

老抽王を手に入れたのでさっそく試用してみた。

老抽王

■豚バラ肉の香味煮揚げ蒸し
 
材料:豚バラ肉(皮付なら尚良し) たくさん
調味料:老抽王(中国たまり醤油)、老酒(紹興酒)、塩、砂糖
香辛料:五香粉(必須)、八角(必須)、黒胡椒、丁子、肉桂、花椒
その他:香菜、屑葱、屑生姜
 
1:煮豚 脂と臭みを抜きつつも、風味を損なわないよう塊のまま肉に火を通す
イ)大鍋にヒタヒタの水を張り、屑葱、屑生姜を加え、豚バラ肉を塊のまま中火で15~20分ほど茹でる。灰汁が出れば取る。
ロ)茹で上がったら、茹で汁から肉塊を取り出して、皮側に串をプスプス挿して調味料が染み込み易くしておく。茹で汁は後ほど使うのでそのまま残しておく。
ハ)ボールに置いた肉塊に老抽王を15mlほど満遍なくまぶす。
ニ)そのまま常温まで冷ます。
 
2:揚げ豚 肉塊の周囲を焼き固め、旨味の流出を最小限にする
イ)植物油を180℃に熱し、肉塊をこんがりと焼き色が付く程度に軽く揚げる。
ロ)油をよく切って、常温まで冷ます。
ハ)断面積にもよるが、概ね1cm~1.5cm厚に切り分ける。
 
3:蒸し豚 高温の蒸気と茹で汁で味を染み込ませながら柔らかく仕上げる
イ)蒸し器に入る大きさの器に切り分けた肉を並べ、茹で汁120ml、老抽王30ml、塩5g、砂糖15g、老酒150mlと香辛料を回し入れる。調味液の総量は肉の半分が浸かる程度。
ロ)蒸し器が沸騰したら、器ごと蒸し器に入れて中強火で最低1時間以上蒸す。可能ならば3~4時間蒸すと尚良い。
ハ)蒸し上がったら味見。ここで調味液を再調整しても良い。
 
4:馴染ませ+余剰脂の分離
イ)常温まで冷えたら器ごと一晩冷蔵庫で寝かせ、冷却過程を利用して調味液の含浸を促進させる。
ロ)翌日、冷えて白く固まった脂だけをスプーンでこそげ取る。(ラードとして転用)
 
5:仕上
イ)器の調味液を50mlほど抜いて、器を蒸し器に戻して再加熱1時間。
ロ)50mlの調味液を手鍋にとって、老抽王、砂糖、老酒等で適宜好みの味を付ける。
ハ)蒸し上がりに合わせて、水溶き片栗粉、胡麻油などでとろみ付け、香り付け。
ニ)蒸し上がった肉を器に盛って、香菜を添え、餡をかけ回す。

角煮

際立つ複雑な香味を味わう。もちろん、肉は箸でとりにくいほど蕩けているが、焼けた外皮でかろうじて繋がっている。重量ベースで30~40%ほど脂が抜けているので、しつこさはまったく感じない。脂、赤身の食感の差異と外皮の香ばしさ、内部の湿潤が交互に味覚を刺激する。スパイスと香菜の組み合わせも豚肉の風味を引き立てる。写真は750gの生肉からできたものの半量だが、ビールの摘みにしかならなかった。老抽王は一見して素材を濃く色付けるが、甘味とコクに勝り、塩分はかなり薄い。塩を足しているのはそのため。日本の醤油を使う場合は砂糖を倍量にして、塩は足さなくともよい。

角煮詳細

東坡肉(トンポーロー)の場合は、皮、脂、赤身の三位一体を味わう正真正銘の肉料理なので皮付き肉であることが必須。茹でる前に残った毛を直火に当てて焼き落としておく。工程は基本的に同じだが、揚げ上りの肉は一人前100g~150g程度に切り分けるに留め、肉が大きい分、蒸し時間を長く取る。また、肉を蒸す際の調味液に茹で汁は用いずに、すべて紹興酒に差し替える。黒酢を若干加えてもよいかもしれない。蒸し上がった肉はそのまま小さな壷状の器や竹筒に盛り付け、煮汁を少量加えて箸で切り分けながら食べる。濃厚でありながらも、さっぱり味の紹興酒の薫肉といった趣き。芸術だな。コストと手間の分だけグレードも変わる。東坡肉は北宋の詩人:蘇東坡が開発した由緒ある料理です。


2009/09/26 作成__2009/10/05 最終更新