鰹の秘密


そろそろ戻り鰹の季節。鮨屋の鰹は何故旨いのか? と、かねがね疑問に思っていたのだが、職人に訊いてみて納得した。一本当りの卸値は延縄(巻き網?)漁の10倍、スーパーに並ぶ鰹とは桁が違うということ。一本釣り、高速船で近海日帰り漁、水揚げされてセリに掛かるまで船倉で氷漬になっていたものとは根本的に質が違い、鮨で食うための専用の鰹だと。なるほどね。あのしっとり、むっちりした舌触りの濃さと鮮明な血の色、香る身肉の背景には見えない努力が隠されていたわけか。ちなみに、酷いときなど半分くらいは石鰹(ゴリともいう。身が紫や薄白っぽく硬い)で捨てるそう。プロでも捌くまで見分けがつかないので、鰹は一本で買っちゃダメな魚のひとつ。素人が手を出すもんじゃないそうです。やっぱり?

ということで、素人にも扱える秋刀魚

調理時間:刺身20分+酢締め15分(実働)+揚物10分

秋刀魚酢締め

魚を買いに出ても盆明けということでロクなものがない。唯一入荷したものが秋刀魚らしく、たいした大きさでもなく脂乗りも控えめだったので、そのまま食うには丁度よいだろうと5匹。普段滅多に買わないが今年は鮨屋での印象が良かったので、同じものではないにせよ手を出してみた。2.5尾を即日刺身で、残りも3枚に下ろし、酢締めにしてペーパーに包みパーシャル行き。中骨と削ぎ落とした腹骨もボールに放りこんで塩を振って冷蔵庫行き。

アラは低温で3分、高温で1分二度揚げして塩・胡椒を振る。一晩置いた酢締めは皮を剥き、削ぎ切りにして、玉葱、大分産の夏芹と合わせ三杯酢で和え、煎り胡麻を振った。脂にすっきりと透明感があって、思ったより良い摘みになった。

骨煎餅

徘徊雑録2

◇ 浜勝 1/1(訪問店数/徒歩圏店数)

九州長崎が本拠のとんかつチェーンでリンガーハットと同じ会社が経営している模様。近在の岡田屋内に売店を構え、その脇に9人ほど座れるL型カウンターが設けられている。FCなのか直営なのかは不明。夜は11時まで。酒なし。せめてビールくらいは置いてくれ。主力は弁当や単品持ち帰りなのだろう。チェーン本体のレストラン業態(未経験)とは異なり、メニューはかつ丼、かつカレー、ソースかつ丼、生姜丼(?:想像できない)の4点のみだが、価格は持ち帰りと同等に500円(カレーのみ800円)とかなり抑えられている。汁は100円で必要なら単品追加する。七味と長崎のぶらぶら漬と思われる漬物壷がカウンターに置かれ、自由に摂ることができる。調理兼販売で女性のみ2~3人で切り回し。応対は簡潔だが丁寧で品が良い。“和可良子は店員にお申し付けください”と表示があるが、そういう当て字は初めて見たぞ。“わがりょうこ”ってなんだよ? と3分くらい考えてしまった。お茶は最初の1杯以降はカウンター上のポッドからセルフ。岡田屋店内ということで客層は女性や年配の夫婦、家族連れなどが多く、落ち着けない。500円で1時間以上(見届けたわけではないので以降不詳)粘って会話に夢中のオバサン客までいて長居は無理無用。

適宜曜日と時間帯を変えて、ロースかつ丼を賞味。丼は小さめだが量は十分。かつも120gクラス、肉厚10mmと決して見劣りしない。ロース肉は機械加工が施され柔らかいが、脂が均一になるよう切った貼ったは施されていない模様で端部は脂身も少し多め、ときおり筋が残る。衣付けまで済んだ物を注文揚げ。待ち時間は10分ほど。かつは産業系チェーンではすっかり主流の、ラードや胡麻油を含まない植物油脂で明るめの褐色にしっかり揚げられている。衣は薄くもなく厚くもなく、パン粉は中目。つゆの浸潤具合も程よく、下半分はしんなりと味が染み込んで密着度も良い。衣がバリバリに立ったショーケースの販売商品とは明らかに別仕様と思われる。揚げ立てで食べないことが前提になってしまう商品とは作り方も変わってくるものだろう(持ち帰り品を作った後の屑パン粉と考えるほうが妥当か)。かなり均一に溶かれた溶き玉子(業務用液卵?)はかつ両端を除く全面に掛かるが、“ふわふわだが生ではない”という程よい固形状態で見目美しく、それだけで好感度はうなぎのぼり。下敷きに玉葱、飾りに少量の三つ葉はかつ丼の常道。

一方、つゆ(割り下)は返しを使っているとは思えないほどコクが薄く、その分、量が多く底がベチャベチャ(最近の流行なのかな?)で、飯の色がすっかり変わっているのには閉口した。2回連続だったので仕様と判断し、3回目はつゆを少な目にお願い。とん茶の荒っぽい野趣は好きなんだが、どうにもブッカケ飯は堪え難い。つゆ自体の甘味は薄甘で、くどさは感じないが惚けた味。出汁は昆布エキスやアゴ・エキスなどを用いた業務用蛋白加水分解物だと思われ、鰹の特徴的な風味は感じない。要は饂飩つゆの系統なのだろう。胡麻油+鰹出汁のつゆを香味の基本とした蕎麦屋というメディアを通して発展してきた店屋物にしてワイルドなB級食とも、肉の目利きであるとんかつ職人店の『かつ丼』とも趣が異なる別モノだが、値段の割にバランスよく、かつ上品にまとまっている。これはこれで、けっこうお薦め。

今後の新規開拓予定

◇ ポポラマーマ 0/3

生麺を売りにしているのは小耳に挟んでいたが、パッと見、女子高生御用達の和風パスタのお店? 前まで行ってショーウィンドウ・メニューを眺めたが、まずは場違い感を克服しないとなぁ。ラザーニェなんぞ北イタリア料理や幅広フェットチーネは生が合うだろうが、カペッリーニ云々まで生なのかなぁ? 夜は店終いが早いようだが、そのうち試してみよう。

◇ COCO壱番屋 0/2

ここも深夜は閉まっている。前まで近づいてメニューを眺めたことはあるが、スパイスが匂わない。スパイスの種類や地域、宗教でメニューが構成されているわけではなさそうだから、やはり典型的な和風カレーの店なのだろう。さすがに、わざわざeat inすることはない食べ物だから、外で食うのは至極理に適っている。今時にしては割高だが、そのうち入ってみよう。

◇ なか卯 0/3

チラ見だが、中途半端なメニュー構成。すき家と同じ経営らしいが、敢えて“うどん”を前面に出されると身構えてしまうというか、味に想像がついて気が惹かれない。北関東には(いや、まぁ、徒歩圏にもあるが)「山田うどん」や「味の民芸」などといった素朴なうどんチェーンもあった(今はファミレス化)が、あっちの方は生産地だからそれなりの素地があったように思う。かつ丼なんぞも扱っているようだが、甘そうだし、玉子が生ッぽそうだなぁ?

◇ はなまる 0/2

かつて、都内で数回利用したことがあるが、何を食ったのかすら憶えていない。気が付くと、いつの間にやら近在にも進出していた。そんなのあったかな? といちばん近い店舗に向かってみると、なんだよ、岡田屋のフードコートじゃねぇか。がっくり。フードコートって酒ないし、客層最悪じゃん。もう一店は普通の店みたいなので、そっちに廻ってみよう。昨今は丸亀製麺のほうが勢いがあるが、出店ポリシーが郊外型過ぎて歩くにはちょっと遠い。

◇ 吉野家 0/3

いろいろ調べたら、なんとか歩ける距離に3店見つけた。この手の店の代名詞のような存在だから一度は食べてみないといけないっすよねぇ。ヤマセでも吹いて、曇った涼しげな日が来たら出掛けてみようか。

炸醤(ジャアジャン)

炸醤は北京風の肉味噌を指す。挽肉500gに甜麺醤150g程度できっちり味付けし、作り置きしておけば数週間は冷蔵で持つ。強火の中華鍋に植物油を引き、発煙したら、牛、羊、豚などの挽肉を水分が無くなるまで1分ほど炒め、油が透明になったら中火に落とし、鍋の余白で葱姜蒜を香り立たせ、小麦を醗酵させた華北の醤の一つである甜麺醤を合わせ15秒ほど炒め、更に黄酒、醤油を加え、焦げないように1~2分ほど馴染ませて、油が浮いてきたら火を止める直前に焙煎胡麻油で香り付けしたもの。甜麺醤は透き通った甘味と爽やかなコクを持ち、辛味はまったくない。麻婆豆腐など四川で用いられる炸醤は甜麺醤の代わりに豆板醤で味付けされる。

◇ 炸醤面

ジャージャー麺というものを場末の中華料理店で食べた記憶があるが、豆味噌を味醂と砂糖で溶いたような甘味噌風味の豚肉餡と辣油の中途半端な辛さが、カンスイたっぷりのぬっちょぬちょ熟成多加水太麺と絶妙なミスマッチを演じていた。多くの中国料理店では当初、炸醤面を提供しようとするらしいが、大抵は客が怒りだすので日和見を決め込むメニューの一つ。日本語の麺が練った粉ものを細長く伸ばした形状を表現する単語であるのに対し、面(簡体字)はイタリア語のパスタとほぼ同義で、小麦粉を練ったもの、その関連製品全般を指す。つまり、ラーメンの麺も刀削麺も肉まんの皮も餃子の皮も面だが、蕎麦粉を捏ねたものは面ではない。

◇ 日式炸醤面(リィシィジャアジャンミェン)

調理時間:30分

日式といえばやはり陳建民であろうが、さすがに炸醤面をジャージャー麺として考案したのかどうかは不明。一般化したのはもう少し年代を下ってから、80年代中期ごろ、バブルと共に普及したように思う。建民の息子である陳健一はしっかりレシピを公開しているので、それに倣うのが簡単明瞭にして賢明。

カンスイを含んだ黄色い中華麺を茹でる準備をする。炸醤に合わせる具、筍、椎茸などは小さめに切り揃え、胡麻油で炒め、火が通ったらスープで割り、老酒、醤油、胡椒で味を調え、味見をしたら水溶き片栗粉でとろみを付ける。タイミングを合わせて麺を茹で上げ、湯を切ったら、冷水、氷水で締め上げよく水を切り、醤油、塩、胡麻油を少量回し掛け手で揉んでおく。カンスイ麺は冷えるとくっついて固まるので、油で揉んでおかないと食うのに支障をきたす。キュウリは皮を剥き、長さと断面を揃えて細長く切っておく。冷たい麺を器に盛り付けキュウリを配置したら、熱い肉味噌をたっぷりと盛りつける。外で食うと、白髭葱がかかっていたりすることも多いかな。

日式炸醤面

日式の場合、イタリアのパスタ風に大きめの器に余白を十分にとって麺を高く盛りつけると見映えもよろしいようで。色みも混ざらぬようきちんと区分して、グチャグチャ混ぜないで、箸で少しずつ和えながらお上品にいただきませう。ジャージャー麺と異なり辛味はまったくないので、お子様でもペロリといただけますことよ。

◇ 北京式炸醤面(ベイジンシィジャアジャンミェン)

調理時間:30分

カンスイを加えていない面(多くは平たい“きしめん”のようなもの)を好みの分量だけ用意しておく。炸醤以外にキュウリや瓜、緑豆、大豆(枝豆)、およびその豆から芽が出たもの(つまり、モヤシ)などを適当に準備。大衆料理なので「細けーことはいいんだよ」的なノリが大事。炸醤はあまり余計なことをせず(ごめん、筍入れちゃった)、スープ、黄酒、中国醤油と塩、胡椒で塩辛く炒め煮して水溶き片栗粉でとろみを付ける。茹で上がった面(うどん)を熱くもなく冷たくもない程度に投げ遣りにぐちゃぁと盛りつけ、茹でた野菜、豆を撒いたら肉味噌、香菜を盛り、グチャグチャに掻き混ぜる。

北京式炸醤面

正宗の場合は器が自己主張しない大きさとし、食い切れぬほどたっぷり盛り付けるのがおもてなし。器に余白が見えたりすると酷い誤解を産むので、皿から落ちた食い物でテーブルが汚れるくらい(いや、床までか)平面的にべったりと盛る。食べる際には肉味噌と豆やらモヤシやら複数の野菜類をトッピングしてグチャグチャに掻き混ぜるのが標準的な作法。店で食うと服務員が目の前で問答無用とばかりに、目にも留まらぬ早業でグチャグチャにしてくれるので手間は省けるかな。

北京式炸醤面詳細

◇ 日式担担湯面(リィシィタンタンタンミェン)

調理時間:20分

カンスイがたっぷりと入った黄色い中華麺の消費期限が切れて色が濃くなってきたので、久々に担担面、面は細面ストレート。黄色く、汁あり、一食分の分量なので日式ですなぁ。原型は四川の振り売り小吃や点心なので麻辣(マーラー)は欠かせないところ。麻は花椒(ホワジャオ)の痺れる辛さ、辣は唐辛子の口がひん曲がる辛さを表し、辛くないマサラをイギリスでカレーと称したように、麻辣に欠けた担担面は“坦々麺”と名乗るべき。

一人前。花椒一掴みと落花生二掴みは別々に小鍋で乾煎りして、花椒は擂り潰し、落花生は適当に握り潰し砕きながら適当に皮を剥いておく。器に練り胡麻50g、擂り胡麻30g、焙煎胡麻油10ml、辣油30ml、醤油10ml、老酒30ml、酒醸30gを合わせておく。和えるのは面が茹って、黒香酢15mlを加えてからがよい。鶏がらスープを別鍋で沸騰させながら、炸醤を豆板醤20g、赤唐辛子3本みじん切り、五香粉で炒め、立ち上る瘴気を嗅いで悶絶し、パチパチ跳ねる挽肉をアチアチと腕で受け止めたら火を止める。本来は川冬菜や芽菜といわれる漬物を使うが、切らしているので茹で面用の湯でモヤシを3秒湯掻き、水気を切る。面を茹で始めたら香菜、葱を刻む。面が茹で上がる10秒前に少量のスープで調味料を和え、すかさず湯を切った面を盛り、炸醤、落花生、モヤシ、香菜を載せ、スープを回し掛ける。最後に刻み葱と花椒をたっぷり振って、底をよく混ぜながら鼻血出そうに濃厚で乳製品のようなとろみすら湛えた胡麻風味と酸・辣・麻・戚(塩)・甜(甘)の複雑怪奇な組み合わせを味わい食う。0.5kgくらいは痩せる。

日式担担湯面

胡麻は白でも黒でもよいが、流通する白は100%東アフリカ・中南米・アジア産、黒は100%アジア特産。ちなみに金胡麻は中東産だが、少々値が張る。産地や産年によりグレードはピンキリ。知人の知人が九州で金胡麻を作っているが、収獲に手間が掛かり過ぎて売り物にはならない(法外な価格になってしまう)らしい。ま、趣味の品っつうことで、オレが食えるからそれで一向に構わないんだけど。


2009/08/21 作成__2009/08/24 最終更新