雨季の谷間


睡蓮

皐月晴れ。アッサムのアイスティを手に池を眺める。人にとっては嫌な季節だが植物は自然の恵みを享受して勢いいっぱい。特に手を掛けるわけでもなく、あっという間に睡蓮の花が咲く。成長は著しく速い。ジーッと見ていると動いているのではなかろうかというスピードでにょきにょきと葉が増えていく。水を代えても夏場は三日ほどで植物プランクトンが繁盛し水が緑色を帯び始めるので、葉が増えると影が増えて水温が上がりにくくなるのは望ましい。

花

植付け面は水深25cmほど。花は3~4日間、朝から午後2時ぐらいにかけて開く。黄色のつもりで買ったのに何故か白。なんという仕打ち。一日に一つぐらいずつ増えていく葉は紫色から緑色に見えるが、半透明で光を透過するようだ。若葉と成葉では面白いことに紋様が変わるのが面白い。

葉の影

香菜(シャンツァイ=パクチー=コリアンダー)

買って来た香菜の根を残しておいて(本来は根も食べる)植えたもの。あまり根付きが良くなく、半分程度はそのまま枯れて腐ってしまうようだ。細かい根が付いていないモノは特に難しい。花が咲く程度に伸びると茎は硬く葉も強くなるが、匂いは近くに寄るだけで感じるほど強い。人間のみならず、格好の餌になるらしく鳥や虫の被害が絶えないのにはうんざり。屋内で完全管理で栽培しない限り、無農薬できれいに作るのはまず不可能だろう。露地でも手間要らずの大蒜や葱を見習ってほしいものだ。一年草なので種の収獲を目指す。秋になったらスパイスとして買っているインド産のコリアンダー・ホールと合わせて植えてみよう。芽が出るかどうかは微妙。

香菜

売り物ほど太くも長くもならないが、勝手に生えてくるものを利用しない手はない。茎は汚れを落としたら一晩以上水に漬て灰汁抜きする。茎が細すぎて表面の薄皮を剥くのは困難なので、金たわしで茎を掴んで擦るように表皮を剥ぐ。適宜刻み、たっぷりの湯でかるく塩茹でしたら再び水に晒して試し食い。灰汁が残るようなら、そのまま漬けておいても良いが、苦味がないのも興趣に欠ける。そのまま醤油と鰹節で香りを楽しむも良し、醤油と酒で割った液に漬け込んできんきんに冷やし、酒の肴にするも良し、売り物の腑抜けた味とは雲泥の差の野趣を心ゆくまで愉しむ。

蕗

エビチリ ― 乾焼明蝦(ガン・シャオ・ミン・シャー)風

調理時間:下拵え30分+調理10分

海老は良いモノを使うにこしたことはないが、しっかりと味付けをするので鮨で食うような物を用意する必要はない。21/25サイズ(1ポンド(453.6g)当り21匹~25匹)や26/30の殻付き大正海老冷凍輸入品(100gで一人前)で十分だろう。オリジナルは川海老だ。どうせ真似はできない。本来は頭付きを使い、味噌部分も味付けに利用するが、個人的にくどくなり過ぎと思うので鮮度が落ちた安価な頭なしで十分と考える。以下、分量は頭なし海老200gに対して。

海老は常温に戻し、頭付なら頭を落とす。殻の隙間に竹串を入れて背ワタを抜き、足は毟る。尻尾の先端は数mm包丁で落としておく。殻を剥いてはいけない。ボールに入れて塩一掴みで揉み洗い。どす黒く水分が出てきたら水で流し、よく水切りする。次は片栗粉で同様に揉み洗い。汚れが移った片栗粉を水洗し、キッチンペーパーで一匹ずつ絞るように水分を抜く。水分をよく拭いた海老を再びボールに集め、下味付け。塩2.5g、老酒15ml、胡椒をまぶし、卵白1個分ぐらいでぬちゃぬちゃよく揉む。海老が卵白の水分を吸いこんだら片栗粉を乳液状になるようによくまぶして揉む。最後に焙煎胡麻油5ml程度を加え冷蔵庫で最低30分寝かして冷やす。

海老を寝かしている間にソースを準備。葱、生姜、大蒜適量はすべてみじん切り。P県豆板醤、豆板辣醤、泡辣椒みじん切り、老酒、鶏がらスープ、醤油、砂糖、黒酢、水溶き片栗粉、化粧油として胡麻油、飾りの香菜あたりを準備しておく。さあて、始めようか。

寝かした海老を150℃くらいの低温で1分ほど、くっつかないよう軽く掻き混ぜながら油通し。海老がほんのり色付いたらジャーレンに上げる。火の通り具合は70%程度。中華鍋に油を敷いてP県+豆板辣醤合わせて30gを中火でよく炒める。葱半量、大蒜、生姜、泡辣椒を加え薫り立てる。強火にしてスープ100mlほどを鍋肌から回し入れ、老酒30ml、醤油10ml、砂糖10gを加え煮立てる。味見をしてOKならば海老を戻し、葱残量、水溶き片栗粉を加え全体を煽って馴染ませる。鍋を揺すりながら20秒で化粧油15ml、とろみがついたらもう一度軽く煽り火を止めて黒酢10ml、香菜を振って器に盛る。

乾焼明蝦

殻付きのせいもあるが、海老の旨味が濃厚過ぎ。頭が付いていたらとても食べれない。殻は剥きながら食うもよし、殻ごと食うもよし。下拵えをしっかりすれば大きさも縮まない。身肉は弾力がしっかり残り、なおかつ柔らかく甲殻類の特徴的な風味を湛える。辛味、甘味、酸味、塩味、旨味のバランスもよく、薬味や香菜もよく香る。色味が茶色を呈するのはP県のせい。ちょい、とろみ付き過ぎ。かなり濃厚なので酒は薄いビールがよいな。総じて辛いので、良い子は真似をしないように。見た目だけはエビチリに似ているという、いつものありがちなパターン。次回は殻を剥いたやっぱり似非エビチリ ― 乾焼蝦仁(ガン・シャオ・シャー・レン)にしてみよう。

乾焼明蝦詳細

ちなみに、海老(蟹も)に関してはまったく思い入れがないが、海老料理は何故か評判が良い。下拵えが面倒だからイヤなんだけどね。海老は個人的には鮨屋でたまに食うぐらいで、50%の確率でおいしいと思うことがある。天麩羅の海老もおいしいと思ったことがない(天麩羅=かき揚げ:メゴチ or ハゼ>穴子>キス>>超えられない壁>>…>(サツマイモ=精進揚げ)>海老)ので、純粋に興味が湧かない素材ということになるだろう。イセエビや牛海老系のフライ類、シーフードなんちゃらに至ってはむしろ好みからは完全に外れた食物として認識しているので、敢えて購入したり、食べに出掛けることはない。

大鰻

調理時間:15分

1枚だったらぎょっとするが、計量写真は2枚入り。1尾1枚400gの鰻長焼があったので買ってみた。特に表示はないが広東ないしは福建、現地加工冷凍品バラ売り。鰻って3P(活け重量、1kgあたり3匹)がいちばん大きいものだと思っていたが、わらじのような化け物だった。頭や骨、腸、水分の滅失を考えると蒲焼は活けの60~70%らしいので、2Pをはるかに超える。普通のアンギラ-ジャポニカ背開き。でろんと長さは30cmを軽く超え、幅は16cmに及ぶ。大方輸入を絞った際に、投げ遣りに取り残されてぬくぬくと育ち過ぎたのだろうか。規格ハズレのせいか極めて廉価。投げ遣りの結果の投げ売り。

計量

さっそく賞味。さすがに1枚はとても食い切れそうもないので1人前は半分に処す。付着したタレは例の如く甘過ぎ濃過ぎなので湯ですすぎ落とす。かなり蒸しが入って背側もよく焼けているので、いきなりオーブンで焼いた。200℃で6分ほど。皮目の脂が滴り落ちて、身にもうっすらと脂が沸き出るくらいが頃合。焼き上がりを飯に盛り、予め醤油とみりん(1:1)で作ったタレを軽く掛けるだけで特盛鰻めし。

大鰻

泥臭くはないが鰻臭くもない。大味ともいう。見立て通り完璧に蒸しが入って身肉はふわふわ、皮は箸で裂ける。皮目の脂はかなり落としたつもりだが、まだまだ十分な脂乗り。若者向けで今風のノリ。よかった、半分にしといて。食い切れないわ。よく見かける安っい鰻丼にでもするならば、1匹で6~8杯、あからさまな“ひつまぶし”なら10杯は楽に作れそう(原価率10~16%くらい? 笑いが止まらんな)。


2009/07/05 作成__2009/07/05 最終更新