逍遥の日々


ふふふんと新たにバゲットが売りのパン屋を開拓。停車場からちょっと歩いた高台の集落にひっそりと隠れていたということもあるが、築30年ほどの古い重層長屋の1階に位置し、小じゃれたバーじゃあるまいし、ごつい木扉で中が見通せず、今までパン店だとは思わなかった。すぐ隣は“行列ができるほどではないがわざわざ出掛けるラーメン店”と聞くが興味なく、もっぱらもう一軒手前の蕎麦屋がお散歩コースだったので、偶然見つけたという次第。扉を開けるとスケルトンの奥がパン焼き工房、手前側の極小スペースが売り場。なんちうの? プロヴァンス風というの? 如何にも女性が頑張りました風のディスプレイが微笑ましい。無口な旦那が焼いてちょっと疲れた美人の奥さんが売るという家内制手工業であることは明白。肝心のバゲットは210円と価格は十分競争に堪えるが、径50mm、長さも500mmちょいとミニ。試しにハードなパンをいくつか買ってみたが、30代くらいの作り手らしく、センスが新しく、尚且つ非常に拘りが感じられて宜しい。粉はリスドールだろう。硬めに香ばしくしっかりと色付くまで焼き上げられた皮としっとりしてはいるが甘味を一切感じない生地のバランス、気泡の入り具合、きっちりした塩気とともに下手な高級チェーンを凌駕する。イーストはドライだろうが、街道沿いの天然酵母を売りにした勘違いパン屋なんぞ足元にも及ばない。各種パンは焼き上がり時間が明記されており、バゲットは毎日12:30に上がる模様。今度は焼き上がり直後を狙ってみよう。プロヴァンス風サンドみたいのもおいしそうだったな。もう一回同じ味が出ていたら、調達先を切り替えよう。

親分が代わって後ろ盾を喪った途端、コロッと手を返すようにあちこちで調査結果が覆り、ジリ貧路線を余儀なくされたと思ったら、最後っ屁のように下請け孫請けに加えポチやプードルまで総動員した在庫処分セールで鼻摘みモノだったタミフルも面目刷新、そろそろ頭を抱えていた不良在庫も捌けた頃でしょうか? マスクを織り成す繊維の巾よりもウイルスの大きさのほうが、比較すること自体が無意味なほどはるかに小さいのではないか? と思いつつも、ヒマなので盥(たらい)を買ってきて睡蓮の植え付け。

睡蓮

今年は手始めにホームセンターなどで500円ほどで売られている、小苗の温帯睡蓮2株。上手くいったら来年は夜咲きの青花の熱帯睡蓮を追加しようと思う。

たこ焼き

調理時間:延々

元々それほど頻繁に食べるものではないが、辺境の在ゆえ、中外食を問わず、中身が妥当で、上手に焼けて、尚かつ受け入れられる調味を施すまっとうなたこ焼き店が存在しないので必然的に自分で焼くことになる。熱した油を仕上げに掛け回して外カリ中フワトロだの、隅に寄せてある作り置きをこっそり混ぜるなんていうのは論外だが、カリッカリだのフワッフワだの、トロットロなどという是認し難い幼児食感とともに砂糖50%超ソースや植物油脂70%の玉子酢混練ソースを「いらないっていうのに掛けやがる」風潮が蔓延しているのも足が遠のく理由の一つではあるか。もっとも、作るとなればけっこう手間が掛かるので、おいしいたこ焼き店が軒を並べていると耳にする都会が羨ましいものだ。

たこ焼き

年1回程度じゃ、なかなか上達もしないが、家にあるのは老人から払い下げられた、ただの鋳物鉄板タイプのもの。ガスコンロに載せて使う。40年以上前のものだから今のたこ焼きに比べ直径30mm強とかなり小さいモノができる。準備は楽だし味も安定して蛸をケチればローコストだが、焼き上がるのにけっこう時間が掛かるし、付きっ切りで面倒見なくちゃいけないので夏は堪らんよ。

揚げ物一考

食物に含まれる脂肪はカロリーが高いが故に概ね世間の目の敵にされているが、どんな油脂を何から如何様にして摂取するかの問題だと考えている。さすがにこの歳になると、内外食問わず揚げモノは天麩羅は別格として、とんかつ、牡蠣フライといった擬似和食ぐらいしか食べなくなるし、酒を呑む故、丼ものや甘い味付けの料理も箸が進まないので、油脂と糖分の同時摂取が上手く回避されているような気もするし、既製マヨネーズやドレッシング、コーヒーフレッシュなど成分の大半(マヨネーズで70%程度:JASで65%以上に規定)が植物油脂ゾルでできているものは使わなくなるので、使うべきところに必要なだけ油脂を使っても上手くバランスがとれているのだろう。ということで、揚げモノに対する抵抗感はなく、心置きなく食べている。もっとも、似非洋食風に豪華を気取る海老フライやビフかつに背伸びしようという気はサラサラなくて、せいぜいメンチやコロッケの類がお似合い。

コロッケ

調理時間:中弛み付で1時間

遠目にカツやメンチ(ミンチ)だと思っていた揚げものが、コロッケだったときの落胆が忘れ難い記憶として刻まれていないだろうか? たまにはコロッケが食べたいな、と思うようになったのは、ほんのここ数年のことである。とはいっても、今度は食べる場所に苦労する。かつてはどんな商店街でも一つはあった肉屋の店頭で、揚げ立てを新聞紙に包んでくれたものをその場でハグハグ齧ったものだが、今はそんな商店街自体が死滅した。洋食屋での扱いも豪華なエビフライや蟹クリームコロッケの添えものといった雰囲気で完全に継子扱い、下手すりゃ出来合い惣菜か冷食で、およそメインとして真剣に作っているところは少なくなったように思う。定食には別の問題が付きまとう。個人的に“芋”をおかずに米飯を食べることができない(トロロ芋は除くが、アレもおかずは別にあるわね)ので、大衆食堂のコロッケ定食には“肉じゃが”と同じくらい困惑してしまう。

“肉じゃが”は甘ったるく砂糖くどいという致命的な欠陥を抱えつつも、肉さえ良ければ“牛肉をおかずにジャガイモを食い、腹がいっぱいになる前に胸がいっぱい”、あるいは“牛肉をおかずに米飯を食い、ジャガイモを累々と積み残す”といった工夫で、なんとか砂糖(≒ショ糖:C12H22O11)・芋・米(≒共にでんぷん:[C6H10O5]×n)の多糖類三位一体炭水化物共食いジレンマから逃れられるが、コロッケ定食になるとキャベツをおかずにコロッケを食う以外に選択肢がないという意味でより悲劇的である。生キャベツの千切りじゃ、飯のおかずにならないだろう? 米飯に甘ったるいソースが掛かるのも心底遠慮したいものだ。この世には、それを合わせた“肉じゃがコロッケ”なるモノまで存在するようだが、悪趣味な和洋折衷の極みにはもはや恐れ入る他ない。黒ビールの摘みにしようと手を伸ばした俵が一口齧って、何やら甘い。掛けられたソースも甘いが、それ以上に中身が甘い。屑肉とジャガイモの濃厚砂糖醤油煮が充填されているのだ。そこには純粋な味を蔑ろにして妙な思い入れと免罪符を持ち込む“お袋の味”やら“家庭の味”の典型的な気持悪さが露呈していた。

フランス料理のクロケット(croquette)がオリジナルと云われているが、ジャガイモを揚げたものを主菜として、パン(ライスでもいいが)のおかずとしてウスターソースで食べるというメニューはないので、他の和食化された洋食屋メニューと同様に、恐らく日本ローカルな食べ物と考えることが妥当だろう。

ジャガイモ(男爵)1kg(主食2人前x2回分)の泥を適当に落として、そのまま熱湯で20分ほど茹でる。中まで火が通ったら熱いうちに皮を剥き、ボールで適当な大きさに崩す。茹でている間に、バターで玉葱みじん切りを炒め、玉葱が透き通ったら牛挽肉300g、ナツメグ、塩、胡椒を加え中火でじっくりと炒める。肉色が変わったら人参とパセリ(葉+茎)のみじん切りを加え、挽肉がポロポロになったらボールの崩したジャガイモと合わせて、手早く混ぜる。ここで味見。この味がコロッケの味になるので納得がいかなければ調味料で調整する。味が決まったらラップを貼って冷蔵庫で1時間ほど馴染ませる。具が冷えていないと揚げる過程で破裂するので十分に冷やしておく。

コロッケ

冷えた具を手で捏ねて、平楕円型や俵型に整形する。曲がったことが嫌いならば正8面体や正20面体にすればよかろう。薄力粉、玉子、パン粉の順に衣を着ける。パン粉は好き好きで選べばよいが、目の細かいものが好み。たっぷりの揚げ油(キャノーラ70%+ラード30%)を180℃に熱し、衣が浅い狐色になるまで揚げる。中身には既に火が通っているから時間を気にする必要はない。衣が色付いてきたら温度を200℃に上げてさっくりとした食感を出す。揚げたてをビールを片手に摘んで齧る。飽きたらリー・アンド・ペリンズのウスターでもディジョン・マスタードでもそれなりにいける。おかずは塩漬け生肉や白鮭燻製と生玉葱のマリネなどなど。イモイモしているとすぐ飽きるので味がきちんと回るように芋は小さめに潰している。コロッケの場合、衣の馴染み具合で失敗することは稀。食っているうちに食欲は急速に萎んでいくので、残りは整形までして冷凍する。次回半解凍で衣を着け、じっくり揚げるとそれほど遜色はない。

茶葉蛋(チャー・イェ・ダン)

調理時間:15分+5分+5分+5分

玉子が邪魔でしょうがないので茶葉蛋。普通に半熟~固茹での茹で玉子を作り、ちょっと冷ましたら転がしたり、スプーンの腹で叩いたりして殻にヒビを入れる。手鍋に水500ml、醤油15ml、砂糖5g、肉桂1片、八角2輪、乾燥青茶葉一掴み(30gくらいかな)を煮立て、茹で玉子を殻付きのまま投入。弱火で15分煮込んだら火を止めて煮汁に漬けたまま一晩冷ます。翌日になれば一応食べれるが、再度火入れして沸騰したら冷ますを2、3日繰り返すと中にまで味が染み込んでよりおいしい。茶葉には強力な殺菌作用があるので保存も利く。

茶葉蛋

使う茶葉と香辛料の選択でいろいろな風味が楽しめる。紅茶、青茶、黒茶なら何を使ってもよいだろう。茶は決して安価ではないので新品でなくてもOK。今回は醗酵度が甘めで葉っぱも茎も一切合財入っている廉価烏龍茶の“出涸らし”を冬場の天日で再乾燥させて保存したものを使っている。


2009/05/24 作成__2009/05/25 最終更新