くすぶるGW


GWといえば、引き篭もって、おっとりとひょうきんで辛気臭いHenry Cowで決まり。

日本酒度+21という化け物のような酒があったので所望。刈穂の生原酒。思ったよりは豊穣で濃厚な甘さの後に辛さが際立つ。普段飲んでいる安酒は+3.5だよん。食べるほうは何も考えず最近はもっぱら“おまかせ”。カワハギ肝のせ>イサキ>鰹>鳥貝>ホタルイカ沖漬>シラス軍艦>カスゴ(春子)>黒ムツ>ホヤ酢軍艦>赤ムツ漬。順に2種ずつ出してくれるが、いつも組み合わせが工夫されて、気が利いている。別に奇を衒っているわけではなく、その日のお薦めを適宜出してくれるだけ。ホヤは今期初もの。鳥貝は地場の生。鰹は大胆に皮目を切って捨てた80cmくらいの真っ赤な背身を削いだもの。水っぽさ皆無のしっとりとした緻密な肉と赤一色の鮮やかな香りは正に鮨屋でしか食えない味。小指の爪ほどの生姜と青葱すら不要だろう。売値を押えるため高い材料は使えないらしいが、味のほうは素人ではどうにもならないプロの味、プロの所作で感服。10貫終わると追加で好みを頼む。エビマヨとサビ入り干瓢巻。人柄の差が出るわな。まぁ、エビマヨと云っても、絶妙の加減で茹でた剥き身の甘エビをタルタルの素で和えたものを浅めに握った軍艦にこってり載せてくれるのだが、エビが3~4匹ほど入って高さが口の開口限界を超えそう。お茶を啜りながら、パリッと巻いた干瓢巻をハグハグ食ってお勘定。

影と光

鮨屋で特上ちらしを持ち帰るのもよいが、その足で大衆天麩羅店で弁当を見繕ってもらう。天麩羅5種を載せた天丼弁当が500円と格安。無駄にちゃらちゃらしたデパ地下惣菜に比べ、質がきっちりして安定しているし、けっこうボリュームがあって弁当に相応しいのでいつも重宝している。種は数十種から任意で入れ替え、または追加が可能でたいていは穴子と鰯、鶉の卵串、春菊あたりを追加してもらうことが多い。海老以外はすべて100円しないので、あるの全種一つずつとかいう開き直った注文も可能。小さいのはおまけしてくれるし、娘は相変わらず可愛い。

アンチョビ

昨年11月に漬け込んだセグロイワシが漬け上り。4.5ヶ月はちと長過ぎたかな? と思ったら、大きなものはまだ微妙に硬く、手捌きに手間が掛かった。爪が痛いよ。匂いは十分に醗酵した匂いで、身肉がしっとりと硬く、捌きながら摘んだ感触はたいへんおいしい。元のイワシが良かったのかな? 月桂樹の葉と黒胡椒を加えたオリーブ油に漬け込んで一月ほどでアンチョビになる。残った汁はナンプラー、塩は再利用。セグロは発泡スチロールで箱売りしているところを見つけたので、そろそろ秋用を漬け込もう。

漬上がり

緑豆もやし

適度に湿気を与えてやると、三日ほどで十分伸びる。日本のもやし(とはいっても種は100%輸入品だが)ほど太くはならず、繊細、或いは鬱陶しい。中国料理によく使われるが、もやしほど水っぽくならないので重宝する。緑豆自体はキロ数百円なので極めてコストは安い。

もやし

箱寿司

昔、よく食べたのに、最近手が届かなくなったものの一つに箱寿司がある。あるいは棒寿司を含めてもいいかもしれない大阪寿司の類である。子供の頃は大阪出張の親父の土産はたいてい寿司と決まっていて、穴子、バッテラ、鯛、蒸し海老の組み合わせや、太巻、蒸し寿司の一種である薄焼き玉子の茶巾寿司を心待ちにしていたものだ。ナマモノが少なくて酢飯の甘味も受けた要因だろう。社会人になった後、大阪の社長に連れられて行った平野町の老舗も忘れ難い。当時は(自分の金じゃないから)気にせずムシャムシャ食っておったものだが、モノも芸術的だったが、お値段も芸術的だったと最近、偶然某百貨店の出店で見て知って、申し訳なかったなと思っている。

江戸前握りが酢が立った酢飯に様々な魚が持つ特有の滋味を合わせ、普通の醤油より僅かに甘く薫る煮切りを塗る(つける)ことで、言うなれば対比的な鮮烈さ、“手術台の上の雨傘とミシンの出会い”のような差異の妙、あるいは“キレ”を愉しむもので、酢飯とネタが完全に一体化したら興が殺がれてしまうのに対し、箱寿司の妙は甘味と酢を媒介にした魚と種々の薬味類や海苔、胡麻、白板昆布を一定の緻密な構成の下に調和的に、まったりと一つの世界に封じ込めた味覚の小宇宙を作り上げていることであると考えている。握りの潔さ、野趣に富んだ即興的荒っぽさに対し、箱寿司の小体で繊細で、構成主義的なまでの完璧な世界観も芸術レベルにすら達していると云って良い。それは食べ方にも表れていて、握ったその場で直ちに食べることを至上とする江戸前握りに対し、しっとりと寝かせ、盛付や組み合わせに精緻を尽くした技巧的配慮がなされ、酢飯も人肌が基準である江戸前に比して、砂糖の保湿性を利用して硬くならない配慮が為されているから冷めてもおいしい。

酢飯

白米を普通に研いで、昆布を敷いて10%減水、若干硬めに炊き上げる。蒸しも控えめに10分程度で切り上げる。櫃(そんなもんないからSUSボール)にとったら素早く合わせ酢(米4合時:米酢100ml、砂糖45g、塩10g)を混ぜ込み、切るように団扇で扇ぎながら手早く混ぜる。当初は米4合に米酢100ml、砂糖30g、塩7.5gで合わせたが薄過ぎ。酢飯の温度で味が変わるので冷めたときを基準にしないと抜けた味になる。実際にはこれでも売り物に比べ味が暈けた。常温保存食にするならば、更に2割増しくらいは必要なのだが、砂糖大匙3って、もはやお菓子の領域では? と怯んでしまう。

穴子寿司

100gで150円もしやがる福島産穴子二匹。旬には早く、身肉の薄さが気になり迷ったが、鯖と大正海老が揃ってしまったので無視はできない。湯霜して冷水に取り白く浮いたぬめりを包丁で丁寧にこそぐ。本来は焼くのだろうが、自信がないからそこはそれ、煮たものを炙ろうかなと。煮穴子の手順は以前の通り。酒、ザラメ、醤油を順次加えて1時間強煮上げる。煮上がって常温まで置いたら、バットに載せてしばし冷蔵して崩れないようちょっと固める。更に、寿司にする直前に、詰め代わりの鰻蒲焼のタレを塗りながら網で軽く炙る。

途中経過

30cmのラップを木枠に合わせ、底から周囲に広げておく。皮目を上になるように穴子を敷き、酢飯半量を均す。山椒の実(佃煮)、山椒の葉を適当に散らし、海苔で押え、残りの酢飯を盛り付け均す。四隅はきっちり目に置いて広げたラップで飯を包み蓋に体重を掛けグイと押す。180度反転してもう一度。スポっと枠を抜き、小口もラップで押さえしばらく馴染ませる。一晩置くぐらいが一体感が出てよい。

穴子寿司

海老寿司

本来は厚焼き玉子や子鯛の酢締め、木耳なんぞと合わせて“こけら寿司”というらしいが、玉子は年に一回食えば満足である。今年は某停車場前にできたばかりの某立ち食い寿司で、試しに先週食べたばかりなので殊更意欲がわかず割愛。自家製という雰囲気ではないが、玉子だけはまぁまぁ。近在では子鯛は真鯛ではなく、まず血鯛だろうが、素人が狙って買えるものではないし、鯖より安価でありがたみも特にないのでカスゴの季節(そろそろか)に食えればよい。

海老は100円/100gの大正海老、頭なし輸入ものを300gほど。殻付きのまま背ワタを竹串でほじり、腹側に串を通し、3分ほど身が赤くなるまで茹でる。茹で上がったら冷水で締め、冷えたら串を抜き皮を剥く。皮は油で揚げて摘みに、揚げ油は蝦油になるので再利用が利く。剥き身はキッチンペーパーで丁寧かつしっかりと水分を拭い、腹側から包丁を入れ、開く。けっこうぎりぎりまで入れないと上手く開かないので手加減が肝要。開いたらバットに並べ塩を振り15分ほど水抜き。塩を水で洗い流したら甘酢に30分漬け込み。味が染みたら水分をよく拭っておく。

椎茸+胡麻

木枠にラップは同上。山椒の葉を裏返して適宜配置。海老を長手方向に隙間なく並べる。酢飯を半量盛り、均したら椎茸(予めみじん切りにして醤油、酒、みりんで茹で上げ冷やしておく)、煎り胡麻を振り、木枠の大きさに切った海苔を敷く。残りの酢飯を均し以降同上。

海老寿司

鯖寿司

鮨屋のあんちゃんに白板昆布ってどこで売ってる? と聞いたら、さぁ?? 乾物屋じゃないの? と云われた。う~む、乾物屋がないじゃん。市場にいけばあるんじゃないの? とも云われたが、そこまでするか? ネットで探すとAmazonにもあって笑えるが、バッテラ用だと30円/枚程度と送料のほうが高くつく。ということで、とろろ昆布を削り出した残りが白板昆布らしいので、おおもとのとろろ昆布で代用してみた。味付けしようとすると溶けるので、出来上がりに薄~く煮切りを塗るということで勘弁して。

箱寿司三種

鯖は一尾198円、30cmほどと小振りな地元産真鯖。捌いたら鮮度が今一だったが、まぁ、限度内だろう。売れ残った同じ鯖を翌日生のフィレにして売ってやがる。三枚下ろしをきつめに塩して2時間、塩を落としてレモンを絞って酢締め30分。骨抜き、皮剥きして一晩冷蔵で馴染ませる。翌日、寿司に。締めた酢は概ね米酢で、締鯖を作る時に冷蔵保管して毎回再利用しているもの。

木枠底にとろろ昆布を敷き、鯖を裏返して配置し、酢飯を半量盛る。薄切りにした甘酢生姜を並べ、青紫蘇の葉を敷き、残りの酢飯を均等に均し押す。以下同上。

考察

箱寿司

2寸6分の芸術には程遠いテイタラク。まぁ、最初から上手くいくとは思っていないが、酢飯、種ともに改善の余地が多過ぎて困ったものだ。やはり最大の焦点は味付けか。食べる時点を想定しての味の濃さ、飯の渇き具合を想定して作らないと暈けたちぐはぐなものになってしまう。時間が経てば酢は飛ぶし、冷めれば味も薄く感じる。血鯛が手に入ったら今度は厚焼き玉子を加えて再度挑戦してみよう。


2009/04/25 作成__2009/04/25 最終更新