花曇り


鰹は勝浦に1/29に初水揚げで、2月から初鰹状態が続き、もう、ありがたみも季節感も欠片もない初夏の風物詩だが、花曇りが続くようになるとさすがに値ごろ感が出ておいしくなってきた。分厚くそいだ赤身を握ってもらい、生姜と青葱をトッピング、煮切りで食べると鰹特有の爽やかな香味と微妙な青臭さがいっぱいに広がる。最高に旨くなるのは漁場が近づく5月から6月中ぐらいだろうが、この時期にあれば必ず頼むネタの一つ。知人が近所の海で刈り取ってきたワカメも旨い。磯臭さと海藻の旨味、シコシコした硬質の食感が調和して、刺身でも湯掻いても素晴らしい肴になる。ワカメの刺身+筍の先端刺身+山椒の葉+三杯酢は今この時期にしか食べれない初夏の食いものにして和食の醍醐味。

海鞘(マボヤ)

旬にはちょいと早く、まだ小さいが鮮度がまぁまぁだったので2個。宮城の養殖もの。天然は赤というよりも茶色くくすむ。100円/個と宮城以北太平洋岸以外なら、まぁ、妥当な線だろう。殻が丸っこく張りがあり、赤が鮮明でイボが多いものほど良いと云われる。去年は韓国産の病気苗を持ち込んだ業者のおかげで壊滅的打撃を受け高価だったが、今年はどうだろう?

真海鞘

+印の吸入口部分をカットして中の水をボールに開け、殻を包丁で割り、取り出した身を割って暗色の内臓や腸管を毟り取る。浅いオレンジ色の身を適宜切り、ホヤから噴出したボールの水で食うのがまずは礼儀。白桃のような食感と磯の香り。サッパリとしたほのかな甘味と果物のような爽やかさ。ここ数年流通事情の改善が著しいせいか、思いの他モノが良く1/3ほどを食ってしまった。古くなるとエグイ金属臭がする。残りは酒の肴に。3年位前に作った柚子ポン酢でホヤ酢にでもすれば、あっという間になくなる。

ホヤ酢

在庫整理即興調理

作るものを決めて、それに合わせて材料を掻き集めるようなことはしない素人の家庭料理の限界ゆえ、そんなのあり? 的な有り合わせの材料でいい加減なものも多々作っている。最近、苦し紛れに逃げを打つのが“あんかけ”。見た目は毎度似たようなものが出来てしまうが、材料は似ていても基本となるベースが異国というほど異なるので、風味もそれなりに異なる。

◇ 四川風唐揚版 15分

餡に味をつけるので肉の下調味が不要というお手軽版。鶏肉は一口大に切り、乾煎りして擂った花椒と五香粉、黒胡椒をふって軽く揉んでおくだけ。餡の具は人参と筍水煮を細切り(5x5x40mm)、葱の葉部分適宜。葱姜蒜、赤唐辛子みじん切り、豆板醤を油を敷いて焦げないようによく炒め、香りが立ったら具材を入れて火を通す。具がしんなりしたら、鶏がらスープ200ml、醤油15ml、老酒30ml、砂糖10gで味付け。沸騰したら水溶き片栗粉を加え、更に1分ほどしっかり沸騰させる。最後に黒酢15mlを加える。餡のころあいを見て匂い付けした肉に片栗粉をまぶしたら揚げるだけ。唐揚げはカリカリのものが好みなので、最初は低温で3~4分、仕上げに高温で30秒ほど狐色に色付けして出来上がり。熱々の餡を唐揚げに掛ける。

唐揚げ

◇ 広東風鍋巴(おこげ)版 自家製30分 既製品15分

もち米が余ったので伸ばしておこげにしてみたが、乾燥の見極めが難しく、水分が多かったせいか既製品に比べると著しく食感が落ちる上、既製品のほうが安いんじゃ話にならん。既製品はさすがにフワフワでパリパリ。200℃の油で数十秒揚げるだけ。浮き上がったらすぐに回収して皿に盛り、熱い餡を掛ける。

もち米おこげ

餡は在庫整理のベビーホタテ。ベビーホタテは海中に浮遊する天然の幼生を採苗器で捕獲し直径3.5cmほどまで養殖したもので、大半はホタテ養殖・放流用の稚貝として生産されるが、一部が食用として出回るらしい。最近は稀に生の稚貝を目にすることもあるが、大半はボイル冷凍品であまり褒められた味ではない。人参、筍も在庫整理。葱と椎茸はみじん切り。穏やかな広東風に貝柱でとったスープにカキ油(オイスターソース)、塩、胡椒、老酒、砂糖、黒酢で味付け。カキ油も大半が簡易製法となり陳腐化が進み、風味の代わりに大量の糖分とアミノ酸、蛋白加水分解物でできているオイスターソースの場合は、砂糖を入れるとくどくなる。東南アジア産もかなり甘いので、趣向と目的を考えて選択する必要がある。

既製おこげ

続・酸辣湯麺

調理時間15分

豚の血ゼリーは今のところ手に入らないので、これ以上安い肉はないだろうと思われるブロイラーの胸肉(28円/100g)で代用。若鶏と書くと、まるでちゃんとした鶏を若くて柔らかい内に締めたモノのように聞こえるが、3ヶ月で成鳥に成ってしまうブロイラーは、心は子供、躰は大人という意味であながち間違いとは云えないからいいのか。そして、やっぱり今をトキメク筍水煮加工品。キロ単位で売っている業務用真空パックのモノと個包装の九州産や京都産では売値に10倍以上の開きがあるが、どうやら中身は20年前から同じらしい、ということで拘る意味はないだろう。というか、地ものの筍は旬に自ら皮を剥いで、刺身でこそこそ食ったり、軽く湯掻いたものに山椒の葉を載せていそいそと食べるモノのように思う。あとは香菜か。昔は一時期栽培していたこともあったが、今回は買って来たもの。青蒜(葉大蒜)よりは需要があるのだろう、季節を問わずたいていのスーパーや八百屋で安価に手に入る。

準備

胸肉100gは皮を取って、火が通りやすいように小さめの一口大に切る。皮はスープにでもしよう。葱姜蒜各15gはみじん切り。泡辣椒5本、赤唐辛子3本も中身ごとみじん切り。筍水煮は5x5x40mm程度に細切り。鶏がらスープ、別に溶き卵2個、P県豆板醤10g、水溶き片栗粉、麺は細ストレート。香菜(シャンツァイ、英語:コリアンダー、タイ語:パクチー)一房は洗って適宜刻む。器に醤油15ml、老酒30mlを合わせておく。

調理

基本的には以前と同じ。油で鶏肉を炒め、火が通ったら葱姜蒜、泡辣椒、赤唐辛子を加え香り立てる。筍水煮、豆板醤を加え、こちらもしっかり炒めて香り立つように火を通しておく。鍋で鶏がらスープ300mlを煮立て、五香粉一振り。別鍋で麺を茹で始めたら、用意した器に黒香酢30mlを加え、煮立った鶏がらスープに水溶き片栗粉でトロミ付け、溶き卵を流し入れ軽く掻く。器の調味料を鶏がらスープの液体分で割り、茹で上げた麺の湯を切り、盛り付ける。炒めた具を載せたらスープの残りを満たし、最後に香菜をどーんと盛り付けて、辣油を廻し掛ける。

酸辣湯麺

考察

食べる際は、よく混ぜてもいいし、上下でスープの変化を愉しむも良い。際立つ酸と辣が玉子の柔らかさ、香菜の甘い香りと調和する。繊維質の筍の食感も歯応えがあって麻辣との相性も抜群。肉類の旨味が主役というわけではないので、後は何を望むべきか方向が見えない。辣油は自分で作るとどう足掻いても売り物のように赤くはならないが、味や香りは負けないと思う。香菜は撮影用に控えめに盛っているが、全面を埋め尽くすほど掛けるのが好み。香菜は極めて好き嫌いが激しい材料のようで、たいへん面白く愉快。日本より南のアジア各地では極めて頻繁に用いられるので、食べれない人は日本人向けのボッタクリ観光食堂でしか飯が食えなくなるという代物。屋台や大衆食堂では日本人とわかると好意で倍量ぐらい入れてくれるんだな。吐く息が香菜。


2009/04/04 作成__2009/04/04 最終更新