暗い春


異常な陽気につられて蛙が目覚め、雄7と雌4で池に数万匹分の卵を産みつけおったので除去。うちはトコロテン屋じゃないんだ。勘弁してくれ。一転して冷え込みが復活すると再び土の中に潜ったのだろうか? クウェクウェ合唱が止んだ。百舌に早贄(串刺し)にされた蛙を見ることも少なくなったが、猫すら避けて通りやがるので毎年個体数が増えていくのだろうか。そのうち食ってみよう。

ぬくぬく

開花期の梅はほっこりと曲率の強い花弁が可憐でありながら肉感的で抗し難い魅力を放っているが、たいてい花粉とセットなのであまり良いイメージはない。雪になりそうな寒空の下、隣町で講習。業界が微妙に異なるため内容的には他人事で、ザマァ(笑)であるが、さすが、声のデカイ業界、講習は至れり尽くせりの無料だし、役人の低姿勢ぶりが目立った。ずいぶん扱いが違うじゃないか。今回の新規立法で概ね騒動の再発防止と責任の明確化によって幕引きが図られたわけだが、そこまでして、“守るべきモノ”には価値があるのか? という率直な疑問と懐疑を押さえることができない。

白梅

羊頭狗肉も極まった――お野菜がいっぱいで嬉しい回鍋肉

下茹で40分+調理10分

清朝末期と比較的新しく開発され、北京料理の甜麺醤を若干ではあるが使うという点で歴史的な四川料理とは大きく趣が違う回鍋肉。とにかく短時間で、お手軽に仕上がるという点が素人家庭料理としてはありがたい。“ホイコーロー”と書くと多大な誤解を受け、面倒でたまらないので“フイ・グゥオ・ロゥ”と呼んでもらえると安心である。今回は季節もよろしく青蒜があるので気持ちよく取り掛かることができる。せっかくだから青蒜を生かすため、前回よりも材料は更に絞る。

今回は非クローン、豚バラ塊530gと脂が付いたモモ肉塊560gを使った2ヴァージョンを試作してみた。だってモモのほうがバラより安いんだもの。両者とも塊ごと臭み抜き仕様で40分ほど茹でて冷ます。茹でることで脂の一部が抜ける。冷めたら5mm厚にスライス。葱姜(大蒜+生姜+葱のみじん切り)30gくらい、赤唐辛子2本みじん切り、青蒜1本ザク切り、ピーシェン豆板25g、ドウチ5g、といったあたりで、5種類の“お野菜”や大豆、蚕豆をたっぷりとれるのが嬉しい。調味は砂糖5g、老酒30ml、醤油15ml。量はすべて塊肉1コに対してそのぐらいの意。計っているわけではない。ドウチと砂糖が甜面醤の代用で豆板醤との質量比は2.5:1と四川飯店の基準通り。準備に5分、本調理2分、後片付け3分といった時間配分で余裕だろう。

胡麻油30gを発煙させ中華鍋で茹で肉スライスを中火45秒ほど焼く。炒めるというよりは焼くといった趣。肉に両面焼き色が付いたら、葱姜(大蒜+生姜+葱)を加える。葱姜は焦げやすいので、油に直接触れぬよう肉の上にばら撒いて手早く炒める。肉はしっかりと高温で炒め、かつ、香味野菜は焦がさずに香り立てることを両立させる。調理は物理現象と化学反応の単純な応用だから、理屈を追っかけていけば結果が素直に出るので疲れない。自らの目で材料を選び、日々黙々と自らがよりおいしく食べるだけのために、研鑽と考察を重ねることができるのはこの上なく愉快で楽しいことである。引き続き醤類をよく焼き香り立て、スプーンやお玉でピャッピャと味付けを施し、肉に味を絡めつつ、火を止める10秒前に青蒜を入れ軽く丁寧に鍋を煽り、計1分30秒で火を止める。

◇ バラ肉(98円/100g)版

バラ肉スライス

肉を炒める段階で出たラードを眺めているうちに日和見気分が沸いて半分ほど脂を抜いた結果、四川飯店の動画とは若干見映えが異なってさっぱり風味になってしまった。おまけに、肉料理である以上野菜で誤魔化せないのに、肉が少なすぎでとてもじゃないが主菜には程遠く、摘みレベルの量にしかならなかった。葱姜が微妙に焦げたが苦味が気になるほどではない。危ない危ない。他人には出せるレベルにないが、出来上がった肉は非常に旨いのでいくらでも食べれそう。最後に加える胡麻油はもっと増やすべきだった。辛味も中途半端で辣油にしたほうがよかっただろう。ドウチを使うとコクは申し分ないが黒が入って色合いが汚くなる。やっぱり甜面醤買わないとダメかなぁ?

豚バラ回鍋肉

◇ モモ肉(77円/100g)版

モモ肉スライス

バラほど脂が抜けないはずと高を括ったのもあるが、こちらも肉を1人前250g強も使っているのに目減りが酷く出来上がりのショボさにがっくり。腹を満たすには倍量が必要だろう。モモ肉だと脂が薄いせいか若干硬い仕上りで、バラ肉の焦げた外皮の香味と蕩ける内部の食感のバランスに比してはるかに劣る。量も酒の摘みレベルにしかならず淋しい。脂の不足は化粧油で補う必要があるだろう。

合わせる酒は加飯酒。常温ストレート。黄酒の一種で普通の紹興酒よりももち米と麦麹が多く添加され、アルコール度数も17度と高く濃厚なもの。中国産のもち米と浙江省紹興市近郊の鑑湖の水で作られるので、640mlで1本200円台とこれまた格安だが、中国人から観ればボッタクリ価格なのだろう。紹興(シャオシン)は文学者、魯迅の生地でもあるな。中国料理は後片付けが楽。鍋は湯とササラでちゃちゃっと洗い、火にかけて水分を完璧にとばすだけ。2分で済む。週に1度くらい使えば特に油塗りは必要ない。

豚モモ回鍋肉

なかなか気に入った甜面醤を探し出すことができなくて難渋している。甜面醤は小麦を塩と麹で醗酵させ甘味を添加した醤で、さっぱりとした透き通る甘味と醸造ではあるがコクを目指していない爽やかな旨味が絶妙なバランスで合わさった率直な調味料である。コクのある脂っこい料理に合わせると威力を発揮する。かつては近在でも直輸入品を扱っていたのだが、その店はいつも閑古鳥が鳴いていてあっさりと潰れた。それ以降は何故か三河の赤味噌に砂糖と胡麻油を混ぜ、鼻につく甘さとコクを強調したお手軽豆味噌糖添加代用品ばかりが巾を利かせ、そんな風潮に嫌気が差して自然と甜面醤を買うことはなくなった。大豆を使わないことに意義がある調味料に、平気で大豆を主原料に代用して同じ名前で売り捌く節操の無さも感覚的に是認できない。しかたがないので今度はこのところ食材でも脚光を浴びている北池袋で探してみよう。ついでに、ちょっくら青島[口卑(口偏に卑:一文字)]酒でも呷りながら水餃とドロドロの水煮牛肉でも食ってくるか。醜い媚と裏返しの諦観ばかりが透けて見える、とことん堕落しきった高級中華や麻婆豆腐チェーンよりも遥かに安い値段で遥かにマトモな飯が食える。しかし、日本語が通じないのは仕方がないとしても、漢字が簡体字なのは想像力を駆使しなければならず困るんだよな。

換骨奪胎の成れの果て――さっぱりヘルシー麻婆豆腐

調理時間15分

こちらも清代末期に成立したせいぜい150年ほどの新しい大衆料理なので中国5000年の歴史とは何ら関係がないし、基本は素人原価100~200円の家庭料理なので、2ヶ月に1回くらい家でちゃちゃっと作るに相応しい。頼みもしないのにコースで出されたりしたら凹むものなぁ。成都の痘痕婆さんが来客に際し出すものがなくて困り果て、即興で作った料理といわれる。まずは何と言っても花椒。一掴みを軽く乾煎り、擂鉢で潰す。食感は野蛮だが粉よりもホールを潰したほうが匂いが強く好みに合う。昔は表層を覆うほど満遍なくかけたが、最近は麻も辣も控えめ。妥協と倦厭の産物に成り果てている。元々、激辛○○の類は好みではないし、まったく興味がないので念のため。参考動画は王[丹彡]氏のこれに勝るものなし。

ピーシェン豆板15gくらいに赤唐2本をワタごと鋏で刻む。豆腐はしっかりした食感と豆腐の味が濃い木綿豆腐(中国豆腐はもっと硬い)で代用する。最近の豆腐は見る見るうちに小さくなって、大規模小売店仕様ではとうとう1丁300gが標準になってしまったので、その場合1人前で1丁使っている。味も著しく腑抜け豆腐の味がしないので、結局は豆腐屋に出向いて400g品を買う破目になる。豆腐は1丁だが、牛肉は50gで十分。羊があればこしたことはないが、近在では入手先が限られるし、所詮は豆腐料理である。肉に拘る意義はない。ドウチ7.5gは数種が入手可能で四川永川市のものが著名だが、見た目は違ってもそれほど味が変わらない気がするので広東だが激安(0.6円/g)の陽江ドウチに変えた。青菜は青蒜がシーズンで丁度良い。豆腐はさいの目に切り下茹でして熱を通し水分を切っておく。こうすると、煮込み時間を短くするだけでなく、豆腐の食感が劇的に滑らか、かつ粘り良く型崩れしなくなる。

さあてと0.5秒ほど脳の知覚系と運動系に酸素を送り込み、50mlの胡麻油を熱し、強火で肉を焼き(1分)⇒醤(中火15秒)⇒葱姜(中火15秒)⇒スープ150ml+調味+豆腐(強火で煮込み1分)⇒水溶き片栗粉(強火45秒)、化粧油として辣油30mlを入れ、軽く煽って器に盛りつける。肉から仕上がりまでは3.5分程度。以上、量は豆腐1丁の場合。ちなみに豆板醤、ドウチ、醤油に加え、顆粒のスープには塩分がかなり含まれており、尚且つ製品によって塩分量が異なるので、総塩分を勘案してスープの半量を水に置き換えるなどの調整が必要。慣れ(訓練)と味見(試行)は必須。なるべく既製品ではなく、茹で豚や茹で鶏を作ったときのスープを使うにこしたことはない。

麻婆豆腐

添菜は支那竹と青梗菜、木耳スープ。豆腐が多いせいか崩れ気味だし油が足らんな。ピーシェン豆板醤のみだとどうしても黒が勝ち、赤の華やかさに欠けるから少し辣醤で割ったほうがいい気もする。煮込み時に半量、トッピングに半量の花椒はさっぱりで爽やかだが、量がちょっと物足りない。使いだすとけっこう量を使うのでうっかりしていると在庫が乏しくなっている。豆腐1丁あれば一人前の総量としては十分満足できる。要求熱量に達しない場合は最後に米飯を搾菜や泡菜で軽く食べても良いが、素麺(カンスイ麺を鶏がら醤油スープで軽く湯掻く。具材一切なし)にすることが多い。水分補給にはかつてションベン・ビージュウと罵られた青島[口卑]酒の1.5倍もする国産朝日[口卑]酒。さっぱり目の青島のほうが合うが、在所ゆえ近在ではなかなか手に入らない。燕京も見かけないし、このあたりの流通経路はどうなっているのだろう?


2009/02/26 作成__2009/03/06 最終更新