寒中閑話


自家製

青森産の立派な大蒜から芽生えた葉大蒜(青蒜)は未だ生育途上だというに、季節柄売り物が出回り始めた。さすがプロの製品、大きいし尚且つ安い。さっさと日和ってウハウハ買い込む。うむむ。例年匂いが薄くなる気がするが、さすが青蒜。球根とも葱とも違う食感と香り。これでこそ麻婆豆腐やら回鍋肉も冴えるというもの。魚香茄子用にあつらえた泡辣椒(パオラッジャオ)もほど良い漬け具合になってきたので、準備は万端整いつつある。

売り物

近傍の在にある重層素泊り宿の軽食堂の広告に目が留まり、はるばる食味。献立は鉄火場の摘み食いを更に海賊風? に仕立て上げたというサンドウィッチ・バイキング。バスケットにサンドウィッチ詰めて仲良し小良しとお出掛けするハイキングではない。さっそく席に案内されるが、会社だったら切なくなりそうな窓際で、眺めは程々だが自己日影になった中庭がうら侘しい。ナイフやフォークとナプキンだけが用意され、後は自分でやれということらしいが、餌場には既に列ができていて早くも怯みかけている。

昼御飯として食べていると思うのだが、何故か麦酒や葡萄酒が用意されておらず鼻白む。おまけにどうも、こう、居心地が悪いと思ったら、並んでいる客の100%が幼若年と晩年を除いた女性で、何を品定めしているんだか決断が遅くて列が進まないんだな、これが。選ぶほどのものじゃないし、取敢えずさっさと取って、後で何度でも来れば良いのでは? と思うほうが異常なのだろう。周りを見渡して悟った。百席ちょっとは入っていそうな食堂だが、大人の男客は計3名しかいないという冷厳な事実を突きつけられてしまったのであった。よろよろ。

肝心要のサンドウィッチはこれといって特徴のないカツサンドにマヨネーズ調味のポテト野菜サンド、ケチャップ・ソースの卵とベーコンのホットサンドと3種類しか用意されておらず、材料はそれなりだが一つ摘めばもういいわといった平凡極まりない出来栄え。その場に蹲ってアッラーの神に言い付けてやろうと思ったくらい絶望した。代わりに何があるかといえば、思い出すことすら難しい、ちゃらちゃらと彩りよくディスプレイされた在り来たりの西洋惣菜に加え、驚くことにその種類、量を遥かに上回る膨大な俗称“スイーツ”に匂添加紅茶や果汁、乳飲料の類なのであった(レーニン像のように絶句)。平日の真っ昼間、スイーツ(笑)の群れで完全に浮き上がった惨めさは諸兄には想像できないだろうが、限定されていたはずの対象を読み間違えた自らの今日性の欠如を戒めると共に、想像を絶した世間の趣向と欲望の顛末を思い知らされた次第であったよん。

サンドウィッチ

偏向しがちな舌の矯正という意味を含め、外食の機会は貪欲かつ積極的に新しいものに触れたいと期待しているのだが、今回は見事に足元をすくわれた。集客力のある企画であることには間違いないだろうが、外で食えなきゃ自分で作るさでもかまわないが、風土と伝統に立脚した料理には普遍性が必要だし、プロフェッショナルのアイディアや工夫を学ぶ機会を無駄にはしたくないものだ。

サンドウィッチの基本的な佇まいはやはり“片手間”ということだろう。在り合わせた素材を片手間に収集し、片手間に作り、片手間に食べる。といいたいところだが、取敢えず、パンがなくては始まらぬ。定義は自由奔放に拡大解釈されているようだが、ここでは“耳なしコールド四角”という、伝統的な枠を踏み外さないスタイルのものに限っている。そのパンであるが、甘味や旨味の添加されていない普通の小麦と塩からできたパンを日常的に常備したり、手に入れるのは今や意外に難しい。概ね満足できる隣町のパン屋に出向き、一斤を10枚切りにしてもらう。12枚切りも捨て難いが挟む中身による。ライ麦パンや黒パンは尚面白い。酸っぱくて重い黒パンにカリカリに焼いた羊の血を固めたソーセージなどを挟むと忘れ難い興趣を味わうことができる。耳がないと型崩れするので店で落としてはいけない。サワークリーム(高脂肪生クリームにヨーグルトを添加し40℃で醗酵させたもの)は別用途に作ったものをそのまま一部転用、有塩バターは室温に戻し柔らかくしてマスタードをたっぷり練り込んでおく。個人的には、マスタードは軟弱なので練り辛子がよい。

◇ チーズサンド

胡瓜は1~2mm厚の薄切りにして軽く塩を振りキッチンペーパーで水抜き。チーズは色味を考えればオレンジ色のレッド・チェダーが望ましいが、ゴーダしかない。3~4mm程度に薄切り。パセリは葉を細かく刻む。パンの両面にマスタード入りバター。

2種混合

◇ ハムサンド

玉葱は薄く輪切り、青唐と一緒に酢漬けしたセロリ、黒オリーブの実も薄切りにしてボールで白葡萄酒ヴィネガー、偽バルサミコ微量、EXVオリーブ油、塩少々、胡椒で和えておく。生ハムは適宜分割しておく。パンは片面バター、片面サワークリーム。和えものは水分を切ってパンに挟む。

◇ バナナサンド

ばなな

バナナは斜め薄切りにしてジャマイカ産ラム酒(茶色いの)をどちらが主役かわからないほどドバドバ振って漬け込んでおく。摘み食いするとあっという間になくなるので厳に慎む。パン両面にサワークリームたっぷり。ペパーミントでもあれば挟むと尚良い。

後は挟んだものを積み上げて、濡れ布巾等で乾燥しないように包み、重石をして数十分。落ち着いたら耳を落とすだけ。適宜食べ易い大きさに切断。落とした耳はオーブンでカリッと焼いて、EXVオリーブ油と塩、パセリで食べると十分においしい。さて、サンドウィッチの準備ができたら、おもむろに何かを始める、あるいは再開する。作業の片手間に、左手を伸ばし、指先の感覚だけでしっとりとした生地を摘む。目は他所を注視したまま口に押し込む。初めてわかる中身。僅かな嗅覚と味覚だけがすべてである。右手はもちろん片手間に缶ビール。


2009/01/28 作成__2009/01/28 最終更新