冬晴れ


まだ花咲かぬ梅にメジロがつがいでやって来る。里山ならではの長閑な光景である。鳥たちは今ひとつガラスを認識できないようで、それは空じゃないというに無謀にも突撃して激突する。脳震盪を起こして落ちるが、落ちながら何とか飛び去るものや、落ちたままひっくり返っているものまで様々。雨の日に激突したメジロは10分ほどひっくり返って、こりゃ死んだかと思ったら立ち直った。それでも1時間ほどは飛び立てず冷たい雨に濡れながら回復の時を待っていた。“ガラス注意”のシールでも張っておいてやろうか。

墜落メジロ

年明け10日、流通機能がようやく回復したようで、ふっくらと脂がのった良い鰻が出て来た。やはり、しっかりした焼き(焦げは論外)と程よい蒸しで余計な脂を落とし、タレで照りかえらない鰻の地肌の色合いや質感がしっとりと際立った蒲焼が伝統的な本来の蒲焼であろう。薄いだろうと思うほどあっさりしたさらさらの辛口タレがよく合う。買ってくる場合はもっぱら割きが強すぎて、焼いているうちにバラケてしまったような長焼きの格安見切り品。けっこう競争が激しくて、なかなかお目にかかれない。

新暦正月が終わり、隣町の場末に天麩羅を食いに出掛けたらなんと休み。年末年始営業の代休かいな? 停車場ビルヂングのどこにでもある高価なチェーン飲食街は不況どこ吹く風と老若男女の列ができていて、半ば呆れながらも、もちろん素通り。飲み屋が開いている時間じゃないので、仕方なくちょっと歩いて鮨屋。15日まで来るなと言われていたが、そろそろモノも入った頃だろう。水揚げ4日くらいか? 程よく硬軟取り混ぜてたっぷりとした石鯛としっとりと旨味がのった松川カレイに現を抜かしつつ、貝や下手物に浮気と気紛れを重ねつつ最後はブリ、ブリ漬をたっぷりと堪能し、鉄火巻で締める。一月ぶりのブリは浅い肌色に繊細な白糸が網を張ったような生地で、蕩けそうに肌理細かくしっとりと深みある素晴らしい味わいであった。猪口才な背脂なんぞ切って捨てるあたりが潔い。ブリ漬は分厚い赤身を煮切りに漬け込んで、白葱と練り芥子をのせたもの。自然で濃厚な旨味に薬味の妙が冴え渡る。

途中経過

年末漬けのアンチョビは一月ほど経って、身から出た水分と脂分が少し褐色に色付いてきた。身は水が抜けて硬く締まった煮干状態。この時点ではまだ身がしっかりしているただの塩漬け。醗酵も熟成もしていないのでとてもアンチョビとはいえず、旨味は皆無。匂いもほとんどない。気温の低い日が続いているせいもあって、先はまだ長そうだ。空気に晒された部分はエグイ色のカビが生えやすいので、キッチンペーパー等で常に塩水が被る状態にしてやる。

正月といえば乾物と缶詰でできてしまう粉モノ2題

小麦の国際価格はすっかり元に戻ったが、国内売り渡し価格は上がったまま。4月には建前上元に戻るはずだが、最終製品がどこまで落ちるかは見もの。当面一部で抱え込み過ぎた在庫放出が始まって値崩れしているものを狙っているが、思ったよりは下がらないねぇ。決算前を控え、輸入業者は(食品に限らず)どこもここぞとばかりに為替差益を必死で貯め込んでいる模様。

◇ ペペロンチーノ

大蒜と唐辛子だけで簡素に小麦とオリーブ油の風味を味わう。パスタは好みでスパゲッティーニ。大蒜と唐辛子は焦げないように慎重に炒め、塩きつめで茹でたパスタを和える直前にオイルと茹で汁を混ぜて乳化させておく。塩分を調整し黒胡椒を軽く振って出来上がり。最後にEXVオリーブ油を少量まぶすと香りが立つ。パスタの質と茹で加減が肝要にして十分条件。簡素であるが故に誤魔化しは一切利かない。

pepe

◇ 海老と完熟オリーブのダブルソース

海老は素材の入手や調味の按配がとても難しい材料の一つだが、代え難いときもある。生や茹でには適さなくとも、味付けで何とでもなるのも家庭料理の素朴さである。頭と殻が付いていれば冷凍モノでもよいだろう。頭が黒くない(うちに冷凍された)ものを選べばよい。

水を切りながら室温に戻した海老は頭をとって殻を剥き、尻尾もとって背腸を抜く。塩でよく揉み洗いしたら塩を洗して水切り。片栗粉をまぶし、ぬっちゃぬっちゃよく揉んでおく。フライパンにオリーブ油を熱し、海老を軽く色付く程度に炒め、白葡萄酒を適当に加え、アルコール分を飛ばしたらすぐに火を止め、器に避けて置く。オリーブ油を新たに敷いて大蒜、赤唐辛子を入れたら弱火でじっくり香りを移す。そこにトマト缶を開けて、実を潰しながら水分を飛ばすようにしばらく煮込む。水分が3割方飛んだらスライスした黒オリーブを混ぜ込み、塩、胡椒であっさり目に調味する。

pom

合わせる麺はフェデリーニなど細めが好み。茹ったパスタと海老をトマトソースに戻し軽く和え、器に盛り付けて緑菜(イタリアパセリ、クレソン、その他なんでも)を添えて、中央部にザネッティ製マスカルポーネをたっぷり盛る。最初は周囲のトマトのさっぱりとした酸味を味わって、熱で蕩け始めたマスカルポーネを段々と混ぜ、二つのソースをまったりと味わう。


2009/01/16 作成__2009/01/16 最終更新