湯治でぬくぬく


庭石

妙なところに唐突にゴロゴロしている庭石を動かしたら腰が抜けた。一抱えで40kgほどと価値があるわけではないし、小馬鹿にされても反論できない重量だが、日常的な運動不足が祟るのである。腰が痛いとなれば風呂。温めるとてきめんに回復するものであるが、うちには風呂がない。近在を逍遥いたしておるとヤギやら鹿に出くわすくらい田舎ゆえ、近くに風呂屋の煙突なんぞ影も見えず、何故か温泉ならあるのだが、徒歩15分くらい掛かるのね。帰り道、街道筋のヨロズ屋で麦酒を買って飲み飲み帰ると、丁度身体が冷え切っているという按配。仕方がないので貰い湯。これまた貰い物の柚子をボコボコ放り込んで、雲一つない青空を眺めながら漬かるシアワセ。じんわりと痛みが和らいでいく。

風呂

カタクチイワシ

初夏漬けのアンチョビ。塩漬け開始時暑かったので冷蔵庫に入れて、夏が終わるまで忘れていたら醗酵遅延。9月下旬になって常温に切り替えたものがようやく仕上がった。季節的に抱卵鰯だったので卵は慎重に集めて軽く焼くと最高の摘みになった。スペインの安いオリーブ油に代えたら少し甘味が増した? いや、鰯のせいか? 素材の鰯で味はけっこう変わることに気付いた。1年中いつでも見かけるが、概ね冬に漬け始めたほうが味がよい。

カタクチイワシ

一皿100円で鱗ががっちり付いていたのでアンチョビ用に2皿。日によって50円~150円くらいまで値幅があるが意図はよくわからん。片方は48匹で大振り、もう一方は39匹で普通と舐めてんの(笑)? まぁ、昔は拾うものだったわけだし、今も値段からして商売になる魚じゃないから扱いが粗雑になるのは致し方ないことなのだろう。鮮度が素晴らしく良く、腹側にまでびっしり鱗が付いて手間が掛かった。ちなみに鮮度は出来上がりにあまり関係ないので鱗がないものでもまったく問題はない。飽和食塩水に漬かっている限り腐敗はしない。手捌きで数匹摘みながら、水洗後、水分をしっかり拭き取っていつもの塩漬け。冬だから最初から常温放置で完成(酵素による蛋白質分解が進み、身が柔らかく腸がとろりと崩れる程度:15℃で最低3ヶ月程度)は春過ぎだろう。

餃子

粉モノといえばやはり餃子(ヂャオズ)だろう。
粉を練り、丸く伸ばし、餡を包み、たっぷりの湯で茹で上げて黒酢醤油で食う。主食だからムシャムシャ・ガツガツ次から次へとたくさん食う。冷たくなった残り物は翌日、焼餃子にでもすればよい。

水餃子

市販品の皮はオカズとしての焼餃子用なのでコシがなく薄過ぎかつ小さいので茹でると穴が開くことがあるし、何よりも主食にするには心もとない。腹を満たすには数を揃えなくてはいけないので手間とコストが掛かって仕方がない。ということで自ら望む厚さに練るのが効率的である。特に配慮すべきこともなく、ただ強力粉をお湯でしっかりこねて丸くまとめればよい。まとまったら餡を作る間に乾燥しないよう濡れ布巾をかけておく。

餡は肉、海老、野菜、小豆など甘い辛いを取り混ぜて千差万別雨あられでよいと思うが、今回は「豚肉とセロリ」「白菜と牛肉」の2種類としてみた。「豚肉とセロリ」は肉餃子の趣。豚ミンチ、セロリみじん切りを中心に、長葱みじん切り、紹興酒、胡麻油、醤油、生姜みじん切り、五香粉を加え練っておく。香辛料は好みで適宜。調味料は味付けのためではなく臭み消しといった量がよい。

「白菜と牛肉」は野菜餃子の趣向で白菜6:牛肉3:その他1といった按配。みじん切りにした白菜に塩を振り、15分ほど置く。水が出たら手で絞り、更にざる等に押し付けて水分を抜く。かなり小さくなるので白菜の量はけっこう必要になる。牛ミンチに同様に長葱みじん切り、紹興酒、胡麻油、醤油、生姜みじん切り、五香粉を加え、最後に絞った白菜を加えよく練っておく。大蒜は食べる際に好みに応じて下ろし大蒜を加えればよいので、餡には加えない。

餡の準備ができたら皮を作る。丸くまとめた皮の元を2分割し、直径1.5cm程度の紐状に伸ばす。伸ばしたら包丁で1.5cm程度に切っていく。打ち粉をまぶし麺棒で手の平大に伸ばすと厚さは1mm~1.5mm程度になるはず。中心に餡を乗せ、二つ折り。適当に襞を作りながら閉じるだけ。手に皮と餡を乗せ、手をすぼめると自然に閉じる大きさが丁度よい大きさなのではないだろうか。茹でているときに口が開くと悲惨な事態になるので、口はしっかり閉じておく。気になるなら接着剤代わりに湯で溶いた小麦粉を少量使ってもよいだろう。

数が揃ったら茹でる。大きな鍋にたっぷりの湯を沸かす。沸騰したら餃子を6~8個(2~3個/l)づつ投入。氷を張った大き目のボールを並べ、餃子が浮いたらジャーレンですくい氷水で締める。締めたら再度沸騰した湯に戻し再沸騰⇒氷水⇒再沸騰と2回ほど冷水で締めるとコシがしっかりと付く。湯をよく切って皿に盛り、黒酢醤油で直ちに食う。割合は好みで。黒酢は600mlで100円台の鎮江香醋で必要十分だろう。

焼餃子

ぬるりとした食感とむっちりとした皮のコシ、小麦の匂い、くど過ぎない餡の脂と香味、微妙にクセを主張する黒酢のハーモニーを心ゆくまで愉しめる。冷めると皮が硬くおいしくないので胡麻油を張ったフライパンで焼くとよい。焦げ目がついたら水を張り蒸し焼きにする。火は通っているので水は少量、時間をかける必要はない。つゆは醤油にラー油でよいだろう。これまた和食の焼餃子とは似ても似つかぬ極めて香り高く豊穣な一品になる。いやー、ホント。こんなに餃子がおいしいものだとは思わなかった。目から鱗が落ちるとはこのことを云う。


2009/01/04 作成__2009/01/06 最終更新