このところ景気が悪いせいもあって、なかなかいい鮪が妥当な値段で下々まで出回っていて嬉しい。高級店ほど需要が落ち込んでいるらしい。鮨屋曰く、鮪はモノを買わず、人を買うのだそうだ。信頼できる仲卸を選択することが良いモノを仕入れることと同義という意味だが、個人ではそうはいかんよなぁ。自宅で食べる鮪というとコストを鑑みて生メバチの赤身さくか、3~5kgほどの近海本鮪(メジに毛が生えた程度?:半身さくで400~700円ほど)を買ってくることが多い。生にこだわっているわけではないが、凍ったものはどうも解凍が難しいようで、私の腕ではどうやっても身肉の香りや滑らかさが失われてしまう。残念ながら、おいしく食べることができた経験がないという、猫に小判+豚に真珠状態なので高価なインド鮪や本鮪には安直に手を出さないようにしている。

漬丼(本鮪半身50cmほどのさく使用)

鮪は筋に直角に8~10mm厚に斜めに引く。厚さは食感と漬かり具合を大きく左右するので大事。握り鮨に載っている程度の厚さがいちばんよいようだ。最初は、まぁ、普通に刺身で食べるが、鮪に限らずどんなものでも腹身と赤身を交互に食っても4、5切れも食えば飽きてしまうもの。そこで、残った刺身を保存を兼ねて漬にする。残り物をヒタヒタの醤油とみりん、酒各等量(煮切らない)に冷蔵庫で一晩漬け込む。翌日、飯を炊き、丼に炊き上がりの房乙女をどんと盛り、刻んだ紫蘇の上に漬け込んだ漬けを並べ、漬け込みダレを回し掛けるだけ。刻み葱、白胡麻、炙った海苔を散らし山葵を添えれば出来上がり。むしゃむしゃと掻き込む。汁は赤出汁できりっと辛く、具はできればナメコが良いな。

漬丼1

漬け込んで寝かすことで刺身よりも旨味は強く味わい深い。生魚の生臭味も相殺されて、香り立ちもすっきりと爽やか、胡麻と海苔が印象的なアクセントになるくらい。お手軽な割には腹の足しにもなる。創意や工夫とは無縁な残り物にして腹ごなしなので料理というよりは賄い、賄いというよりは食い物と考えたほうが妥当な丼もの。

漬丼(メジ鮪使用)

メジ

さすがに赤ムツは見たことないが、50cmを超える黒ムツなんぞも600円程度で投売りしているわけわからん場末店で、珍しく丸ごとメジが750円だったので面白がって買ってきた。1mほどのけっこう上物のひらまさやスズキも800円~1500円程度でつい手が出そうになるが、以前味わったブリ地獄を思い出してきつく己を戒めている。

さく

鮪も鰹と同じく鱗はほとんどなくて、頭から上半身は硬い皮膚に覆われている。腹の模様の感じから伊豆諸島辺りかな? 延縄にでもかかったのだろう。50cmほどのミニサイズだがパンパンに膨れて重量感たっぷり。血の気も多そうで、捌くとスプラッターだな、こりゃ。頭を落とし腸出して三枚に下ろす。うへぇ、血生臭い。身は血合い骨で更に縦に割り5枚にさく取り。血合いは濃い目の砂糖と生姜、醤油で煮付け、中骨は包丁とスプーンで梳いて中落ち、頭部はえらを抜いてカマを焼き物、せこく頬肉を取ろうと思ったらさすがに薄すぎて断念した。

血合煮付

赤身は若く柔らかい。皮付きのまま食える腹身はけっこう脂が乗っているが、やはり飽きがくる。この程度の大きさでも下ろしたものをそのまま食うより、一日寝かしたほうが鮪本来の味が深まるようだ。トロほど飽きがこない中落ちが思いの他たくさん取れて嬉しい。

中落ち

やはり刺身で余った身肉をすべて漬に。つゆは前回同様に加え、若干の銀印胡麻油を垂らして冷蔵庫へ。翌晩同様に漬丼となった。銀皮付きの腹身も漬けたので総じて旨味は濃い。つゆの表面に脂が滲むほどだ。その分山葵を効かして掻きこむ。紫蘇はなくてもよかったか。まぁ、安価で質的に今一つの素材でも何とか食い物になるという意味においては“漬け”というのもなかなか良い手法ではあるか。

漬丼2

アオリイカ

ついでで買ったアオリイカ。スルメの倍以上の値段だが、もっと吹っかけてもいいんじゃあるまいか? 胴長20cm強と小型だが、一瞬紛い物かと目を疑ったぞ。個人的にスミイカと並んで最も好みなイカである。自然のものとは思えない目元のアイシャドウが美しい。普通に腸を抜き、皮を剥く。皮は剥きやすい。

アオリイカ

抱卵している初夏が最高だが、固めの歯応えのある身肉は旨味に富んで甘味も奥深い。もちろん刺身で食うのが最高。エンペラも下足もすべて刺身で食い尽くす。小さいけれど肝も格別。1~2晩寝かすと身は柔らかく甘味は更に増す。軽く煮切りだけで十分うまい。生姜も山葵も邪魔だ。近場の海でもそれなりに獲れるが一般的に丸ごと小売に出回ることは稀。わたしが行くような鮨屋では年に数回しか見かけないが、見かけたら必ず食べるもののひとつ。


2008/11/06 作成__2008/11/06 最終更新