秋の逍遥

近隣の在を逍遥いたしておると、およそオサレとかお上品といった状況とは無縁な土地柄ゆえ、しばしば目にいたすのが鄙びた場末感がありありと漂う立ち飲み屋でござる。掛けないほうが良いようなボロボロの暖簾をくぐり、気分によって麦酒や酒を所望し、高くても数百円の摘みを一皿、ないし二皿程度頼んで一人黙々と小汚い壁や道行く人を眺めながらおもむろに飲むのである。客層は職業不詳30代から小銭を握り締めたヨボヨボの爺まで、けっこうヴァラエティに富んでいる。摘みは注文を受けてから捌く、焼く、揚げる等基本的な業は守られていて、セントラルキッチン全盛の外食産業のなかでは既に珍しい部類である。禁煙席(席じゃないよね?)もあって拙者にはありがたい。今月は3軒ほどを新たにテリトリーに加え、逍遥ルートにも幅ができて思わぬ喜びを感ずるところである。

逍遥の秋

麻婆茄子

冷蔵庫で茄子がくたびれていた。ヘタの棘は痛いし、生で齧っても旨くもなんともないという意味で茄子ほど使えない野菜もないだろう。天麩羅? 漬物? 焼茄子? 煮浸し? どれも1~2本食えば飽きが来る。そこで麻婆茄子である。たくさん(6本)入っていても文句はでない。

麻婆豆腐の豆腐を茄子に置き換えたものと解釈される場合が多いが、中国料理ではなく日本人がアレンジした中華料理の一種のようだ。一見似た中国料理に「魚香茄子」という料理があるが、豆板醤やトウチを使わずに、泡辣椒(唐辛子の塩漬)の漬け汁に生きたフナを泳がせて作る泡魚海椒と、隠し味に酢を使うという意味で見た目以外は別の料理である。そのうち泡魚海椒というものが手に入ったら挑戦してみるとして、以下は代用品の麻婆茄子である。

まずは材料の準備。鶏がらスープを沸騰しない程度に温め、葱、椎茸、大蒜、生姜、唐辛子酢漬けはみじん切り、筍水煮半割りはザク切り、豆板醤小匙1、砂糖大匙1、老酒、醤油、五香粉、鎮江香酢(料理用のもの)、ごま油、水溶き片栗粉は手近の場所に適量を準備する。すべての材料がそろったら、茄子を縦に8分して200℃で1分ほど、中途で筍を追加し軽く油通ししてジャーレンに上げておく。以上で準備完了。

2r=300mm、t=1.2の鉄製北京鍋を煙が出るまで加熱し、胡麻油をお玉に半分(おそらく50cc程度)程度とり、鍋で加熱。十分に油温が上がったら豚バラ肉ミンチを投入しぽろぽろになるまで強火で1分炒める。油が透明になったら中火にして豆板醤で香付け。大蒜、生姜、唐辛子酢漬けを投入し、焦がさないように香りを十分に立てる。鶏がらスープをお玉1.5杯、醤油、老酒、砂糖、五香粉を加え、素揚げした茄子、葱を入れ、軽く混ぜて一煮立ちさせる。最後に鎮江香酢を入れたら水溶き片栗粉を回し入れて再び強火1分。適度にあおりながらぐつぐつ煮立て、鍋肌に胡麻油を流し入れ火を止める。点火時間は肉を入れてから3分以内(9.3kw ガスコンロ)。それ以上押すと鍋底が焦げる。器に盛り、すぐ食べる。舌が焼ける。

麻婆茄子

残念ながらフナの匂いはしないし、肉が多すぎた。火傷しそうな茄子の熱さと唐辛子の辛味、その尖り具合を丸める酢の隠し味と香りが勘どころか。茄子自体も味をぼかす方向に働くので、味付けは強めでよい。まったりと香る紹興酒8年陳のお供に。ちなみに純国産品の適材を揃えることは甚だ困難なので、よい子のみんなは真似をしないように。丸美屋、ニッポンハム、味の素クックドゥー、伊藤ハム、李錦記謹製などの国産既製品をいただいたらよろしいのではないかと思う次第であります。


2008/10/26 作成__2008/10/26 最終更新