十五夜

四面楚歌とか不条理の極み、話題逸らしのスケープゴートなんていう言葉が似合う、蒟蒻ゼリーの人があまりにもかわいそうなので餅の代わりに喉に詰めてみる。甘いのが玉に瑕だが、たまに食べるとおいしいじゃないか。甘くなくてもよいなら山形の玉蒟蒻も捨て難い味わいがあるぞ。雪交じりの寒風が吹き抜ける駅のホームでうら寂しい光景を眺めながら、串刺しをハフハフ食うのが最高!

調味料二種

食においては地味なイギリスであるが、朝飯は大陸諸国に比べるとはるかに旨いぞ。少なくとも昼飯は抜いてもまったく支障がないほどの質+量である。そんなイギリス由来の調味料を二種。ピザストーン(花崗岩:アンデスブラック 300x300xt13)に載るのはサーソンズのモルト・ヴィネガーとリー&ペリンズのウースターシャー・ソース。おまけは遠い子孫のオリバー・どろソース。大麦から醸造されたモルト・ヴィネガーはフィッシュ&チップスの定番。最近でこそタルタルソースなんぞも使うが、やはりジンとくればフィッシュ&チップス、フィッシュ&チップスとくりゃモルト・ヴィネガーであろう。酢だからもちろんすっぱいが、麦独特の香味が黒ビールで溶いた衣と馴染み、脂っこさを和らげてくれる。カリカリで熱々のフライをヒタヒタに浸して頬張る>キリキリに凍らせたストレートのジン+ライム>冷たさが一転、燃え上がる感触を思う存分楽しめる。イギリスでは98%のシェアを誇るサーソンズ製も近隣の集落では残念ながら、ドイツ風アメリカ企業であるハインツ(Heinz)製が幅を効かしていて、「酒のやまや」以外では見かけない。

ソース

ウースターシャー・ソースはウスターソースの元祖。シャー(Shire)は日本でいえば江戸時代の旧国名、あるいは郡のような扱いか。イングランド北部ウースターを領地とする貴族のお抱え醸造所の製品である。粘度は低く、酸味が強く日本のソースに代表される甘味はほとんど感じない。コクはあるが方向性がまったく異なる。タマリンドとナンプラーが含まれているあたり完全に南インド、マラヤ植民地風のスパイスを基礎に組み立てられた調味料だろう。揚げ物には粘度が高く主成分が砂糖でできたソースをかけるのが一般的なようだが、あっさりと揚げた簡素なコロッケ(ジャガイモと挽肉の)類にはこのウースターシャー・ソースを合わせるのが好みである。

オリバー謹製どろソースも普通のソースに比べ甘味が少なく香辛料にふさわしい味と香りを保っている数少ないソースである。オリバーは神戸の会社だが、どろソースくらいは全国津々浦々の場末スーパーにも出回っていることだろう。¥320~400程度と若干高価で滅多に安売りしないことを除けば入手に困ることはない。鯵フライ、ソース焼ソバといった、ややもすると手を抜いて、安かろう不味かろうと開き直る惣菜アイテムにおいても絶大な効果を発揮する。

変格ぴざ

世間のピザに対するイメージは知らないが、個人的には西洋お好み焼きとしか云いようがなく、イタリアにも“このピザ野郎!”なんていう言い回しがあるように、オシャレで高級なイメージとは程遠い食べ物である。料理店(Ristorante)で扱う食い物ではないという点でも、あながち間違った認識ではないだろうと思うのだが、なぜか場末の大衆酒場では扱っておらず、“お気軽なお値段では食べれないもの”といった妙な価値観が醸成されてしまっているように思え至極残念である。

概ね普通の人間ならば、ある日、宅配ピザの“つくり”に疑問を持ってしまうに違いない。生地が甘ったるい、膨らみ方が不自然、小麦の味がしない上、(薄手の生地でも)カリカリさくさく感に乏しい、チーズが愚劣にして粗悪、具が幼稚で滑稽、マヨネーズ味、ケチャップ味がする! といった離乳食仕様で、タバスコやコーラには合うのかもしれないが、およそ葡萄酒やビールといった食事の基本的な要素とはきわめて相性が悪い。一方、ピザほど製造原価と売値に差がある食い物も少ない。ピザ等を供する真っ当においしい西洋料理店でメニューを眺めると、正直言ってピザの値段じゃないわな。ということで、しょうがない、調理機器の性能チェックを兼ねて、ピザでも作るかよ。ちなみに英語でもイタリア語でもpizzaは“ピッツァ”で、ピザというのは北イタリアの都市、Pisa(ピーザ。母音に挟まれたsは原則濁る。日本ではピサ)のことになる。

材料

夏はトマトが安い。どうにも一箱とかバケツ一杯で500円という商品形態に目がいってしまうので冷蔵庫がトマトだらけになるものだ。水分が多いものは扱いが難しいのだが、この時点で生トマトのピザにイメージが固定されてしまっている。緑ものは欠品中なので庭に生えていた草を調達。茸はエリンギ。チーズはゴーダ100g/枚。アクセントにクリームチーズも適宜用意する。松坂ハムの生ベーコンはこれでおしまい。また買わなくちゃな。

残念ながらトマトソースは日本のトマトで作ってもおいしくならないので、イタリア産やトルコ産の名もないサン・マルツァーノ種の缶詰がよい。昔に比べればずいぶん上がったが、メーカー品より400gで78円くらいの名もない安物のほうが酸味がしっかりしていてよりよい。鍋にオリーブ油を引き、生大蒜スライスと赤唐辛子輪切り、シナモン原木の欠片を投入して着火。弱火でスパイスの香りをオリーブ油に移す。大蒜が揚げ物状態になったら玉葱みじん切りを投入して中強火。ヘラで焦がさないよう透明になるまで炒める。トマト缶の固形部分、塩、黒胡椒を放り込み、トマトを崩しながら水分が半量になるまで煮詰める。シナモンの代わりにロリエでも丁子でもよいがカルダモンは止めたほうがよい。やり過ぎるとカレーになるよん。水っぽさがなくなったら火を止めて十分に冷やして馴染ませる。

トマトソース

主チーズはゴーダかモッツァレラがよい。ゴーダは主にオランダ産。若干塩気があるが、¥1000~1300/kgと価格もこなれて使いやすい。モッツァレラは本来は水牛の乳を使うカンパーニャ産のものを指し、牛乳からこしらえた物はモッツァレラ・ヴァッカ(Mozzarella vacca)といって区別するが、本物は生産量が少なくかなり高価なので、代用品として伊・独・スイス産あたりの¥1200~1500/kg(末端小売価格)の牛乳を使ったものをもっぱら利用する。ピザ用などと称して売られているスライス品はチーズとは思えないほど風味に欠ける上、混ぜものが多く雑味がくどいし、関税や運賃もかからないのにボッタクリ価なので比較対象にすらならない。チーズは元来モンゴルがルーツで国内でも平安時代から食べられていたものなのに、どうにも発展と進歩が感じられないのは残念だ。

飲み物は葡萄酒でもよいがビールにすることが多い。濃いチーズにはタンニンが効いた赤葡萄酒が似合うがピザに高価なチーズを使うのはもったいない。所詮、軽食だから高価な葡萄酒も不要である。産年がないクラスのものを水代わりにするのがちょうど良い。ちなみに葡萄酒とは酵母付葡萄と水、酸化防止剤としての亜硫酸塩のみからできている醸造酒(100歩譲ってガメイのアル添と酵母追添は認める)を指す。同じくビールというのは麦芽とホップ、水のみでできているものであってJASで規定されているものを指しているわけではない。

pizza1

ドライイースト5g、餌の砂糖一摘みを人肌温度の湯で溶く。しばらくするとイーストが醗酵して泡が膨らむ。薄力粉200g+強力粉50g、塩ちょっと(親指と人差し指と中指で摘んだ感じ)、オリーブ油一垂らし、水適宜をボウルで練る。中途でイーストを足して、フルパワーで7~10分、しっとりするまで練ったらオリーブ油を塗ったボウルにラップをして1時間。2倍くらいに膨らます。膨らんだらガスを抜いて四等分。生地を膨らませたい場合は30分ほど休ませたほうがよいが、どうでもいいので麺棒を手に直径30cm、厚さは1~2.5mmくらいに伸ばす。焼くと縁は勝手に立ち上がるので厚さは均一でよい。プロじゃないと丸く均一な厚さにするのは難しいが、他人に食わすわけではないので気にしないようにしている。

pizza2

オーブンのSUSメッシュ皿にいんちきピザストーンを載せてフルパワーで予熱。予熱完了したら花崗岩本磨面に生地を載せ、オリーブ油(生トマトの水分が生地に浸透するのを防ぐため)、トマトソースを塗り、具、チーズを盛る。庫内に戻して250℃で5~8分。焼き時間は縁の焼き色を見て調整する。完了30秒前に草を乗せて焼き上げる。

草が熱風で飛んだ。横着してばら撒くのではなく、見栄えよくチーズに埋めないとうまくないな。生トマトの水分も程よく飛んでさっぱりとした酸味とゴーダとトマトソースのコクがバランスよく、生地はもちろんパリパリでサクサク。作る>食べる>作る>食べるの繰り返しで思い立ったら実働2時間、生地は4枚分、内3枚焼いて200円/枚(人件費除く)といったところか。売値3倍で4ユーロっていい線じゃん。

pizza3

いっそのこと窯でも作ろうかな、とも思うのだが基本的にDIYに類することは好きではない。何をどう作るかを考えて材料拾ってコストはじくのは簡単だが、実際作るとなると普段プロの仕事を目の当たりにしているだけに、出来栄えが予見できてしまってまったく気が乗らない。機会がある毎に職人技を興味深く眺めているつもりだが、道具がないし、あっても使いこなせない。どう足掻いたって熟練にはかなわないものね。

ふさおとめ

房乙女

所詮、二番煎じの「あきたこまち」のパッケージのイラストに包含される微妙な(いや、本質的なと言い切ろう)キモさには腰が引けるが、房子ちゃんには対象を見据えたいやらしい媚がない。あんまり考えもせずに“これでよかんべ”と決めちゃった感が漂うあたりが如何にも間抜けで暢気な千葉の米。かつて利根川支流の上流には著名な銅山があって散々問題を起こしたが、幸い房乙女栽培地域はときおり汽水になりそうな最下流でもある。そしてもちろん、Aランクの食味に比して破格に安い(10kgで¥3280で購入。¥3500以上は見たことがない)。系統は“ひとめぼれ”系列の改良品種で1998年初出荷の比較的新しい米。8月下旬には稲刈りできる早場米で、粒立ちのよさと艶が見事でコシヒカリほど粘らないが柔らかいという、鮨や炒飯には向かないが、ササニシキを常食としている者にとってはそれほど違和感がない。集落に一つだけぽつんとある農協の売店なんぞでコシヒカリと並んでいるとつい手が出てしまうという意味で、成功したデザインだと思う。


2008/10/11 作成__2008/10/12 最終更新