春から夏へ

業務用バターが品薄でバター貿易を独占し、日夜迅速かつ責任ある高度な意思決定を行っている(独)農畜産業振興機構は今夏前倒し輸入を行う模様だが、この粛々とした誠実さ加減は国内業界と連動した政策の一種なのだろう。近在の店舗では供給が不安定で、乳臭く品のないバターのくせに価格が安定時の1.5倍以上に跳ね上がっている。バターの国際価格は2007年の1.7倍に値上がりしても100円/450gだが、国内価格が328円/200g(国際価格の7.38倍)あたりを推移しているのは多くの人が容認し、或いは望んだ結果だから仕方のないことなのだろう。

バター

池に水を入れて遊んでいる。僅か2㎥ほどの水量だが青の入射光を反射した水分子は淡く発色してふくよかにたっぷりと瑞々しい。風に幽かに揺れる水面に映る空は水のまろやかさをそのまま写して、あくまでも透明な初夏の青だった。

バゲット

廃墟だった商業施設にパン屋が二店。二店とも“Baguette(:細い棒、鞭、或いは棒パン)”を“バゲット”として売っていたので早速賞味してみた。両店ともバタール(Bâtard:中間の、折衷の、或いは菓子パンの一種)と並べて随時数本が焼き立てとして陳列されている。高い方の店は一本300円超えとちょっと二の足を踏む値段。長さや太さは正統でバゲットとして見栄えする。塩分きつめ、皮は薄めだが香ばしく硬質で、内部の気泡は中庸で過不足ない仕上がり。非常にパンらしいパンだった。小麦粉自身の味がストレートに表現されているが、薫り高くかなり質の良い粉だろう。焼加減もしっかりと焼きが入り、放置すると歯が立たないくらい固くなる。

十数メートル離れたもう一店はバタールの並びに二種類のバゲットを並べていた。ノーマルが230円、石釜焼が250円。長さはともに70cm弱、直径5cmほどとこちらも正統的な形状。石釜焼きは若干粉を吹いた風情で白く見える。こちらは塩分は普通、粉にも高級感はないが皮厚や焼きは満足できるレベル。生地はしっかりしているが内部の気泡はかなり大きく、不均一で皮の固さと柔らかさのコントラストに秀でている。特に石釜焼は硬質感が高く、イースト由来の若干の酸味があって媚のない歯ざわりが嬉しい。半日放置で乾燥させると、歯が立たなくなる程度に硬化する辺りも前述店と同じ。こちらは高級感はないが、逆に妙な気取りがないノーマル品が気に入った。かつてはまともだった近在の軟弱店の相場が190~250円程度であることを考えれば遥かにお買い得であろう。

ちなみに細長い袋と共にくれる小さなビニール袋はいらない。食べきれない分を入れておけば固くなることを遅らせることができるが、固くなるのがパンである。小麦粉、塩、イースト、水、強いて云えばモルトエキスを加えるのみでできていれば当然の帰結である。顎が疲れるほど噛むことで旨味は更に増すというものだろう。長すぎて持ち運びが厄介だが、雑香のない焼けた小麦粉の香ばしさは素朴な幸福感をもたらすようだ。共に従来の近在では絶滅していたバゲットだけに、三種類も選択肢ができて大変好ましいが、売れ行きは今一つ。とても手を出す気にはなれない惣菜パンと油を塗りたくった菓子パンばかりが売れているのは見慣れた光景。さぁて、いつまで続くやら。

鰹+鰊

鰹と鰊

鰹が最盛期。近海産が出回っているわりにはあまり安くはないが、相対的には値崩れしているのかもしれない。個人的に鰹は一匹1200円、四分の一身で398円というのが限界である。小振りの皮付きがあったので数年ぶりに腹身を購入。引くだけなので料理とはいえないが味は悪くはない。青葱と芽が出始めちゃった蓼、生姜、煮切り醤油で食う。思ったより脂がのっておらず、滑らかな身肉のさっぱりさ加減と清々しい薫りとしか云いようのない初夏の味を堪能した。徹底して鮮度管理された赤身しか出さない鮨屋に比べれば質は落ちるかな。やっぱり鰹は背身に限る。

鰹刺身

道東から三陸沖で鰊(ニシン)が例年になく豊漁のようで、うちのような場末にも大振りの生鰊が出回っている。春しか食えないから早速手を出してみた。頭は血が廻り気味で見栄えはよくないが、鱗はきれいに残ってぎらぎらと輝いていた。逆刃で鱗を丁寧に落とし、早速三枚おろしで皮を引き、斜め削ぎ切り。基本的には鰯の同類なので似たようなもの。骨格が軟いので捌くのは簡単。

鰊刺身

二匹とも雄でムカつく。白子は湯掻いて醤油漬けにするか。中骨は塩胡椒で骨煎餅に。産卵前なので刺身は脂がしつこくなくて絶妙な味わい。思ったより固くてさっぱりとした春鰊の旨味が素朴に伝わった。鮨屋で食う方が柔らかく熟成しているようだ。隠し包丁の入れ方なんぞにも差はあるか。


2008/04/30 作成__2008/04/30 最終更新