Metal郷愁

このところ長らく封じ込めていた金属フェチが再燃して難儀している。怒涛の勢いで上がり続ける材料費を尻目に、その青寒い質感と硬質で妥協を許さない面精度、みっしりとした冷気を包含した重量感に囚われてしまう。

SUS304

俗称さすさんまるよん。写真は熱間圧延のアングル材。No.1仕上というが、実態は圧延ロールから出てきたものを酸洗いしただけのすっぴん。普通はさまざまな表面処理をして使われる。鏡面とかヘアラインとか2Bヴァイブレイションとか2Dとか。SUS304はJISステンレス鋼の規格の一つで、鋼に18%のクロム(Cr)と8%のニッケル(Ni)を含むオーステナイト系ステンレス鋼。防蝕性が高く汎用性に優れたものだがNi暴騰に伴い暴騰中。ここ数年で価格が3倍~5倍近くになっている。冷たくて、重くて、鋼(鉄に微量の炭素を混ぜ熱処理した合金)より固くて扱いにくいが、錆びないという機能性以上に鈍く白銀に光るマッシブな質感に惹かれる。

sus304

板ものはガルバリウム鋼板生板クリア仕上。ガルバリウムというのは商品名だったかな。正式には溶融55%アルミニウム・亜鉛合金メッキ鋼板という。極めて安価で防蝕性と熱反射性に優れるので90年代初頭ぐらいから主として外部用の薄板としてよく使われるようになった。塗装品も多いが、表面の視認できる合金結晶の模様(スパングル:Spangle:花模様)を殺してしまうのは勿体ないだろう。美意識の欠如には開いた口が塞がらない。

HDZ-55

溶融亜鉛メッキの仕様の一つ。母材は鋼材。HDZ-55とは1㎡あたり550g以上の亜鉛をメッキした重防蝕仕様の亜鉛メッキ。溶けた亜鉛のプールに鋼材を漬すことで鋼材表面に合金層と亜鉛層を形成する。電気メッキと異なってメッキ層が厚く不均一なため、表面には微妙な模様(Spangle)やむらができてしまうが、そのランダムで金属にはあるまじき柔らかな味わいは他に代え難い。

hdz-55

できたばかりの鋼は製造工程で空気に触れて形成されたミルスケール(Mill Scale)という酸化皮膜で覆われて概ね黒い。黒皮なんていう。外気に晒すと更に酸化して黒皮は剥離し赤褐色に変性していくが、黒皮のシャープで硬質な輝きも、赤錆がまだらに浮いた鋼も趣があるものだ。錆びは世間レベルでは概ね嫌われるが、コンクリートとの付着性や摩擦力は高まるのでコンクリート打設前や高力ボルト本締め前などには一雨あてておくのが現場の知恵であるし、鋼構造設計指針にも接合部の錆を除去してはならないと規定されている。

赤貝

鳥貝は今だ入荷がないそうだが、代わりに今年は青柳が良いなぁ。大きく肥えて鮮やかな朱色が旨味を保障している。あちこちのモノが入荷するが、バカガイはやはり朱色でなければ食べた気がしない。西から赤貝も旬の入り。一応瀬戸内岡山産だが溝の本数から見てサルボウだろう。当たり前だが、まともな大きさの赤貝は場末のスーパーになんぞは出回らない。スーパーに並べても買い手がつく価格には到底ならないという意味。子供の頃は海岸でごく普通に採れた貝で、面倒だからと小さなものは佃煮や串刺しになって焼かれていたが、今となってはとんでもない話だ。

赤貝

口を閉じると手がつけられないので、蝶番をこじって殻を開けると力もいらず嘘のように簡単。丁寧に掻き出して身と紐を分離。貝としては珍しく体液にヘモグロビンを含むので鮮やかなまでの赤が目に痛い。身は半分に開いてウロを掻き出し、紐は固い部分だけを切り取る。開いた身と紐は塩を強く振って揉み洗い。身が締まったら水洗して塩を流す。器に盛るほどの量にはならないが、味は正真正銘のサルボウである。山葵醤油が独特の香味をもった苦味と旨味を引き立てる。

ウロは沸騰した湯に塩を振って軽く湯掻く。水を切って荒熱をとるとポロポロになる。冷蔵一晩でポン酢醤油。ときおり砂が混じるが、酒の摘みにはもってこいの濃厚さが愉しめる。

剥き身

その名の通りの春告魚、鰊(にしん)を刺身で。かつては出向かなければ生では食えなかったが、最近は三陸産が安価に出回るようになって嬉しい。脂のりが適度で身肉の味がしっかり伝わるモノを選んで出す職人の目利きに感服。続いて、隣に並んでいた花が咲くように抱卵しているアオリイカを所望。鮨のイカとしては秋口のスミイカと並んで春の王道だろう。旨味と食感、卵の弾け具合、酢飯とのバランスは絶妙にして法悦。最近場末の魚屋にも生(頭が黒くて買う気はしないが)が並んでいるシマエビ(モロトゲアカエビ)は一貫に2匹付けで。朱色に冴える縞々の文様と透き通るように透明な身肉の差異が面白い。甘味が強く濃厚。トヤマエビ(俗称ボタンエビ)よりも海老らしい。


2008/04/20 作成__2008/04/20 最終更新