冬の鮨ネタ概観―2007~2008

3月中をもって冬ネタと春ネタがほぼ入れ替わりということで冬ネタの総括。

平目は常磐三陸青森とよく揚がったせいか安価でかつ納得のいく旨味があった。縁側も三度に一度とかなりの頻度で食べることができて、ここ数年では珍しくよく食べた。旨味が載った昆布締めも飴色が冴えて美しい。

近海鯖は真冬まで。鯖といっても昨今は大西洋鯖という脂のりの良い冷凍ものが広く出回って、うっかりすると主従逆転しているが、鯖の味がする別の魚である。真鯖と異なって背身の文様が幾何学的ではっきりくっきりしているので見ればすぐにわかる。スーパー惣菜寿司から回転、名店の漬からバッテラ、名物柿の葉にまで(酷いなぁ)鯖の顔をして広く使われるが、締鯖に代表される鮨にはならない。締鯖というものは非常に微妙なさじ加減で味がまったく変わってしまう厄介な料理である。鯖の質、気温や湿度、職人の腕と味覚、塩と酢加減はもちろん、売る環境や切付け方、握り方で味が変わるし、もちろん見栄えも雲泥の差が生ずるものだ。あちこちと10軒ほど廻ってみればおのずと好みは掴めるだろう。個人的には中型の鯖を使い、浅く塩して軽く締め、柔らかくしっとりした生に近いもの、背の青、腹の銀、脂のマゼンタの三角がほんのりと白い身肉をピンクに染めているのが好き。

XmasRose

寒鰤は年末まで不漁だったが、年を越えてからはそれなりのものを味わうことができた。もっとも、腹身は見ただけで唸ってしまい、もっぱら赤身ばかりを頼んだ。漬にして葱、煮切りもよいが、脂っこいものは辛子で食べても面白い。やりイカは不漁だったのかけっこう値が張って出回る量も少なかったように思う。

ふぐは一日置いた方が旨味が回っておいしいが、白子は生臭くなるので早く食べた方がいい。最初は真っ白だけど段々色もついてくる。1.7万/kgのふぐだと白子はいくらになるんかいな? とかどうでもよくて、酒うまい。純白の震えるように清廉潔白な(アヒャ?)白子は最初はそのまま、紅葉おろし、浅葱、ポン酢醤油と少しずつ薬味を加えてネチネチと愉しむ。繊細にして豊穣。代え難い至福。

近在のふぐも扱っている鮨屋では、冬場に限って断続的にふぐの握りを食うことができる。最近は皿の模様が透けて見えるうす造りのピロピロ並べた刺身よりも、もっぱら手で食えてお手軽、安くて分厚くておいしいからムシャムシャ食べれる握りも捨てがたいと考えている。純白の白身にちょこんと載った紅葉下ろしとわけぎにポン酢ひとしずくというのは堪えられない誘惑だ。ふぐ皮を漬にして軍艦仕立ても味わい深いが、今冬は2年ぶりにテンコ盛りの白子軍艦を堪能した。もちろん生。純白。……素晴らしい。言葉にならんわ。あんちゃん、感動したよ、オレ。涙出た。

今冬の牡蠣は価格が安定し値ごろ感もあってよく食べた。よく行く店では大きなものは一貫付け、小さなものは二つで一貫付けの軍艦で供される。煮切り+レモン、紅葉おろし+ポン酢または塩で食う。町場の魚屋でも三陸産牡蠣が70円になっていたのでしこたま買い込んだりもした。重いのなんのって。開けて食う、開けて食う。ひたすら繰り返し。マガキは岩牡蠣に比べ殻のわりに身が小さいのでけっこう量は必要になる。

ほっきは相対的に値が上がっていた。巻貝(蝦夷ボラ=ツブ貝)の類もよく見かけたが、元々鮨ネタとしては旨味に欠ける。東京湾では本ミルが復活したようで、今年はいつになくミル貝が身近に感じられた。国産のみならず広く世界から掻き集められるナミ貝(通称:白ミル)よりも出回っていたかもしれない。一方、春になって鳥貝は不漁らしく、三河湾も東京湾内産も入荷が未だ皆無だそう。

染井吉野

最後はやはり冬の幕引き、初鰹に言及しておこう。スーパー等には前年秋の戻り鰹の冷凍が出回っているが、あれば早速、手が出てしまう2008年の初鰹は2/15であった。以降、九州から北上しつつ順調に入荷している模様。清々しい香りと透き通るような鮮やかな赤紫は当然として、例年に比べ思いの他脂乗りがよく「今年も変な年になりそうだね」と鮨職人は笑っていた。鮮やかな赤に青葱の緑と生姜の黄が際立つ。垂らした煮切りに負けないだけの旨味も十分に備える。


2008/04/03 作成__2008/04/03 最終更新