本の話13

《このところはどうも頭がノスタルジィ・モードだもんで古いのをひっくり返しています。》と、書いたのはもうだいぶ前だが相変わらずモード。いくつか探しているのがあって、涼しかったので駅前の大規模店二ヵ所と中規模店三ヶ所を巡るもどこにも置いてないでやんの。4冊探しててもっともメジャーそうなものたった1冊しかなくて、あまりにもしょうがないから生タコとシャブリ買って帰って来ました。刺身で食うのだ。最近の品揃えのセンスは書店にとっては死活問題だろうが何ともいやはやすっとこどっこい。取り寄せよりはオンラインで買ったほうが圧倒的に早いし、検索も楽だからなきゃないで良いのだがね。まっとうな(昔風というべきか)書棚がどんどん減るのは売れないものは置かないという効率上致しかたないのだろうが、文庫自体をシェイプアップされちゃうと探しているのが片っ端から絶版になってしまうのだなぁ。数年振りにとある作家(故人)を探していたのだが既に名前自体が目録に無いのだな。

8月に京極の新作がようやく出るようで期待してはいるのですがブランク長過ぎ。6年前の前作「塗仏」で路線変わったか? というところなので蓋をあけてみないと何とも云えないところ。北村薫「リセット」が文庫になったのでようやく購入するもまだ未読。で、何をしておるかというと女子大生シリーズを頭から読みなおしてまた嵌まってました。同性からは嫌われそうな主人公の「私」だが、読むたびにいろいろな発見があって面白い。一般的にはほのぼの系である意味有名だけど、この人(北村薫)の内に抱える闇は底無しに深いなと思えてならない。描かれた人間の悪意が深ければ深いほど、善意が際立つというのはわかるのだが、その悪意を創造する頭(というか心)が暗く怖いのだ。で、「六の宮の姫君」から芥川の「六の宮の姫君」を青空文庫で読んで、今は同文庫の菊池寛を漁っております。買いに行かなくてもすぐ読めるのは実にありがたい。う~ん、芥川は当然として、菊池寛凄いですね。妙に評価が低いのが気になってはいたのだけれど、こりゃ、中高生で読んでもちっとも面白くないのは当たり前だ。今読むと断然面白いもの。いや、まぁ、そのあたりも含めて北村薫の力量には感服します。あとは横溝正史。全集本をいくつかピックアップして再読していたら嵌まってしまって再濫読中。全集に入っていないものは昔、角川から出ていた文庫を引っ張り出して読んどりますが耽美から通俗まで、論理から御都合主義まで玉石混交で面白い。

「青春デンデケデケデケ」 芦原すなお著

河出書房新社 河出文庫 2003年第20刷版 ISBN4-309-40352-2

直木賞受賞作であることはどうでも良い(菊池寛には申し訳ないが)し、評判が高かったのも知っていた。でも内容も想像がついて今更なぁ、と気恥ずかしいというかちょっと敬遠していたのだ。それで、今回「嫁洗い池」と良い機会じゃないかと一緒に買ったのね。ところで読んでから知ったのだが、受賞作は抜粋された抄版らしい。確かにコンパクトで話が飛んでいるような気がした。挿入されるエピソードがなかなか面白いので抜けているんなら完全版買わなくちゃな。ちなみに映画や演劇にもなっているようですが、メディアの特性上商業性の度合いが高まってしまうことと、文字が許容する圧倒的に豊かなイメージの矮小化にしかならないので基本的に関わらないことにしています。

瀬戸内の海岸の地方都市というやたらと暑そうだが明るい風土を舞台にした高校生のアマチュア・バンド物語なのだが、結果的に抱腹絶倒というよりは感情移入がぴたりと嵌まる久々の本でした。時代背景は想像の範囲内で解釈可能というか、実際あまり変わらなかったように思える。章立てが曲名になっていたり、ライブの曲順とかそれなりに知識を要求するのだが、半分も知らないけれど十分楽しめると思う。感情表現が多少そっけないくらいさらっとしていることと台詞が方言なので、頑張ってものほほんとした清々しさがとても気持ち良い。善人ばかりの恵まれた環境でもあるのだが、夏が夏らしい時代だった、ということで良いと思うのだ。でもって、ディテールの話で恐縮ですがそういえば確かにマテ貝って獲るの難しいのだ。殻が意外に柔らかいので下手に力を加えるとぐちゃぐちゃになってしまって食うどころじゃないのね。う~ん、なるほどこういう秘法があったのか。

「嫁洗い池」 芦原すなお著

東京創元社 2003年第2版 ISBN4-488-43002-3

もいっちょ。「ミミズクとオリーブ」に続くミステリィ第二集。いわゆる安楽椅子探偵ものだが、重心は台詞の掛け合いと四国の郷土料理の話に偏っているとも思う。謎は謎としての質を確保しているが、抜けた山葵のような気もする。条件描写とあまりさりげなくない伏線でだいたい結論まで読めてしまうんだよね。だからいろいろな要素の中庸さ加減というかバランスの良さが肝要です。探偵役の奥さんはむしろ記号化されていて、主人公の作家以外の性格描写は意外に雑。水戸黄門風勧善懲悪ワンパターンを狙っているのですかね。ふふ。主人公のへそ曲がり加減と引き篭もり振りには非常に親近感を感じるというか納得できるわ。


2003/07/14 作成