本の話10

忙しくなると本を読みたくなる。事実明らかに読む冊数は増える。脳が活性化するのだろうか。もっとも読むことはできても書けないのは真理であるな。夜通し京極本を再読したりするとさすがに堪えますな。言葉を認識するのは左脳のはずだが、ノイの人間リズムマシンのように右脳モード全開でブレーキが効かない。

「君らの狂気で死を孕ませよ」 新青年傑作選

角川書店 ISBN4-04-143402-5

なんちゅうタイトル。中身はアンソロジィですが「新青年」なる雑誌は大正9年から昭和25年にかけて発刊されていたようです。

「陰獣」は何度も読んだし、何もここで読まなくても良いので他のに惹かれたのだ。懐古趣味だねぇと言われりゃそれまでだが、"キャラ萌え"にうんざりした時には意外にしっくりするものだ。角田喜久雄は時代物があまりに有名ですがミステリィも巧いです。そこらじゃ(どこでもか)ほとんど手に入らないのが残念ですね。個人的には「人間灰」が面白かったかな。「睡り人形」の病的なまでの偏愛も例えようのない明晰さと寒さを感じさせる。総じて荒唐無稽なまでに物語性に富んでいるのが逆に新鮮なのかもしれない。

「黄昏」 岩館真理子著

集英社 ISBN4-08-617213-5

本当は最近、早川から出始めた「清原なつの」について書こうと思っていたのだが延期。追っかけていたわけではないのでわからないのだが、岩館真理子も随分昔から描いている人。現役なのか否かは知らない。時代によって絵柄の変遷をみていると、絵がおそろしく変った(巧くなった)のは80年代中過ぎだろうか。人間以外には神経廻ってないところは相変らずだが、主題じゃないからそれはそれで良いか。自薦短編集の第2巻ですが、こういう話を描くようになったのかと少し慌てた。非常にカリカリした繊細な白っぽい絵が特徴で、中身のナイーブさと合さった感触が好みです。ドツボに暗い話しが多いのだけれど読後感は意外にさっぱりしているというところが不思議か。特に水を書かせたら天下一品だと思うし、どうもこの冷涼な解放感みたいなものに獲り憑かれてしまう。モノクロだけど圧倒的な色彩感が美しい。


2002/07/31 作成