本の話7

「空の色ににている」 内田善美著

集英社刊 ISBN無し

81年5月20日初版コミックスのマンガ。作者は内田善美。たった4回だけど「ブーケ」連載時から良い意味で完全に浮いてましたね。それなりに質の高い中でも突き抜けた異端。もっともこれは大気圏内の話ですが、次作の「Liddle」は成層圏を突き抜けて宇宙の話になってしまった。現段階では絶版でちょっと入手困難なようですが、そのうち文庫かなんかで再刊されるでしょう、きっと。

見上げる天の川、草の匂い、黴と絵の具の匂い、山の稜線、空の青、光と影、網膜に滲む血の色のカンナ、雨に煙る森、冬の梢、吹雪の白い闇、そして漆黒の闇。その黒と白の細密画から涌きあがる目くるめく色彩感は周到に張り巡らされた伏線と共に登場人物の心象をやさしく包み込むように、ある時は抉るように表象する。ポッと呈示される衝撃的な事実すら、もう遥かに過去からの自明の理であったかのように。

物語はおそらく甲信越地方あたりの高校を舞台に一人の少年の一年に渡る変遷と軌跡を、ひとつ年上の少女、一人の異端者との関係を中心に信じられないくらいの静謐さで淡々と描いたもの。語られるエピソードもドラマの欠けらも無くあっさりと受容することを迫られる。苦悩も喪失も希求も受容も情景の一駒のように語られ描かれ、するっと自然に同化してゆくのだ。トーンは非常に抑制されてますが、描きたいものを自由に描ける歓びが素直に伝わってくることと、流れるように巡っていく山裾の街の季節感が美しい。そして、ラストのアカシアの吹雪の中をゆく主人公の表情の穏やかさには心底恐れ入ったのだ。でも、そんな話しも今は昔。携帯はおろかゲームもコンビ二もおそらくビデオすら無かった時代への郷愁かと言われるとあながち否定はできないかもしれない。もっとも、無いことに郷愁ぐらい感じても良いと思うけどなぁ。

「夢の博物誌」 山田章博著

東京三世社刊 ISBN4-88570-542-8

いや、まぁ、絶版レビュウをしてるつもりはないんだが、これもないのか、な?売れ線以外は数打ちゃ当たる的に多種少量生産で増刷すること自体が稀なことになりつつあるのでしょうか。 最近はあまりマンガは描いていないみたいですが、この「夢の博物誌」は短編集。全部で8編が収録されてますが、長いものでは30ページ、短いものはほんの3、4ページってとこですか。絵の上手さには定評がありますが、それにも増して独特の空気感とレトロスペクティブなセンスが絶品ですね。

と、思っていたら日本エディターズという出版社から版型も大きくなって新装されて出てました。ここでいう「夢の博物誌」は「夢の博物誌a」にあたるみたいです。せっかくだから「夢の博物誌b」というのを購入してきました。表紙がちょっとおよよって感じですが中身は普段の絵。そういえば小野不由美(そういえば旦那はどうしたんだ?最近)のシリーズ本でも挿絵を描いてますね。こっちの方が有名だったりして。ずろずろって並んでいると結構壮観です。

「三月は深き紅の淵を」 恩田陸著

講談社 ISBN4-06-264880-6

よくわからないついでにもう一冊。「三月は深き紅の淵を」というタイトルの作者不詳の稀覯本をめぐるメタ・ミステリィ(というのかな?)。ネタバレになるんで書きにくいのだが、この本自体が「4部構成のその本」をめぐる独立した内容の4部構成になっていて、それぞれのエピソードが語られるわけだ。エピソードの内容は伏せておきますが、赤江瀑みたいなモデルがでてきて思わずにやっとしますな。第4部だけ少し毛色が違って、人称が物語から浮きあがっているような気がします。第3部までがなかなかスリリングな完成度の高い物語だけに余計目立つんだけど、これってワザと? 特に本が好きな人ならば、所謂普通の作中作とはかなり異なる構成で楽しめますね。とても読みやすいのもこの人ならでは。そのせいかどうかは知らないけれど、人気があるせいかちっとも文庫が出なくて困ったもんだ。

そろそろ「五色」も復活させなくちゃな

表紙のmetaタグには「五色不動」云々と書いてあるし、中には目当てにして来てくれた人もいるかもしれない(#いないって)。時事ネタだけ書き換えてあとはそのままでもいいかとも思ったのだけれど、もう少し「供物」を充実させようかと考えてます。というか思ってるだけで、まだ考えてるわけではないのでいつになるやら。いつも思うのだがWebでの「やりかた」の基本は「取り敢えず」なんだな。「取り敢えず」upしてあとはちょこちょこ手を入れて続けて行くのが、データの加工に長けたコンピュータを手段にした最適な手法だと思うわけ。業務の場合はもちろんそれでは拙いだろうけど、続かなくなったときが完成とでも言うべきか。


2002/02 作成